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弐瓶勉『シドニアの騎士』衝撃の2巻

単行本の発売日ってもうちょっとこう出版社ごとにバラけてくれないものでしょうか。
チェックしてる新刊が月末刊行ラッシュでいろいろおっつきません。

今更ながらの個人的に贅沢な愚痴はともかく。
このクオリティでこのスピードで2巻が出るとは、
1巻を読んでいたときには想像もしていなかった『シドニアの騎士』2巻

すごすぎる。

ああもう何から書いていいかわからない。
読んでて衝撃を受けました。
こんな展開予想してなかったよ! 微塵も予想してなかったよ!
どうなっちゃうんですかこれから。


地球どころか太陽系が破壊されている世界。
舞台は宇宙空間を旅する巨大船シドニア
シドニアのほかにも人類の繁殖と生産を維持しながら外宇宙に脱出した船は
数百隻あるが、もう何百年も他船との連絡は取れていない。

太陽系を破壊したのは意思の疎通が不可能な外宇宙生命体<寄居子>(ガウナ)
本体と胞衣で構成されるガウナの生態には謎が多く、
ガウナの破壊はシドニアに28本しかない<カビザシ>という槍でのみ可能。

主人公谷風長道(たにかぜながて)は、シドニアの最下層で
何故か祖父と二人だけで暮らしていた少年。

祖父の死後、いろいろあって、シドニア艦長が身元引受人になり、
ガウナからシドニアを守るための衛人(モリト)という戦闘機の訓練生になる長道。

というところから始まる『シドニアの騎士』、本格的ハードSFです。
世界観の説明はじわじわ出てくる感じなので、
SFを読みなれてない方にはちょっととっつきづらいかもなのです。

そもそも主人公長道が何故祖父とふたり隔離されて暮らしてきたのか、
光合成が出来るように改良された人類の中で何故長道だけできないのか、
長道だけケガの治りが異様に早いのは何故なのか、
そういったことは2巻でもまだ解明されていないものだから、
主人公長道に感情移入はまだなかなか難しいです。

でも作者はこの難しい設定と展開に対して、
我々が入り込みやすい空気を用意してくれています。
それがシドニア内部の、ものすごく綿密な舞台設定。


17b8d5ab.jpg


和風な空間で蕎麦を食べる長道と同級生イザナ。



居住区の描写がすごく「現代日本」なのです。
お祭りがあるなんていうと浴衣で団扇持ってリンゴ飴。
たいへんとっつきやすいです。

生まれも育ちも普通のシドニア人と違う長道にやさしくしてくれるのは、
男でも女でもない可愛いイザナと、
清楚で可憐で優秀な星白閑(ほしじろしずか)のふたりだけ。

星白の可愛い浴衣姿にドキマギする長道の様子を、
ミニ浴衣で妬きながら見守るイザナとか3人とも可愛いです。

だがこの可愛らしい思い出を作った「重力祭り」
このあと二度と行われることはなかったという――

悲劇の匂いを漂わせた1巻を経て、
発売されたばかりの2巻は、シドニア最強のチームがガウナに全滅させられる、
ハードなシーンから始まります。
なんとか逃げ切るシドニアですが、多くの犠牲が払われました。
祖父と二人だけの生活だった長道にとって、衝撃が続きます。


最強チームが倒されてしまったことで、
訓練生がカビザシの回収に向かうわけですが、
そこで主人公長道が、型落ちながらも由緒ある機体<継衛>(ツグモリ)に乗り、
回収したカビザシで、見事ガウナを倒します。
この瞬間長道は、シドニアの英雄に!


a0cbc545.jpg

カビザシを持つ継衛の勇壮な後姿。



そして漂流する星白を助けに行く英雄長道
自分に構っていたら長道も帰還できなくなると思い、
呼びかけに応じなかった星白の健気さが素晴らしい。
やさしくて有能で可愛くて自己犠牲精神の強い大和撫子なヒロイン。


d40cadca.jpg


そして二人きりの宇宙空間でなんだか気持ちが盛り上がる少年少女…


継衛に思い入れがあるために長道がムカついてしょうがない岐神(くなと)を筆頭に、
長道は周囲に冷たくあたられることが多いものだから、ハッキリいじめだから、
読んでるほうも星白のやわらかい物腰にずいぶん救われているのです。
もちろんイザナのやさしさにもですが、まあそれはおいおい。

ともかく無事に帰還し、一躍英雄となった長道、見事な掌返しが彼を待っていました。
なんだか突然モテモテな空気も漂い始め、
どうやら長道にフォーリンラブなイザナは気が気じゃありませんが、

星白と長道の間にほんわかなやさしい空気が出来上がっていて、
正直周囲がどれだけ騒いでも入り込む余地はございません。


最強チームが全滅して人手不足のシドニア。
衛人正規操縦士に、
長道と星白、岐神、そして仄焔(ほのかえん)の4人の訓練生が繰り上がります。

チームを組むことになったからには仲良くやろうという空気も生まれ、
ようやく長道がシドニアの一員として迎えられたかに見えた2巻後半――

6fa5faf0.jpg

どうしても継衛の操縦士として長道を認められない岐神の悪巧みの瞬間。
顔だけは美形だがこの人腹の中真っ黒。


岐神の策略にはまって作戦を失敗させた長道に危機が!
気が遠くなっていく長道――――







――そして衝撃の展開が!
詳しくは書けない書きたくない。





いやもうびっくりした繰り返すが全然予想してませんでしたこんな展開。
どうなっちゃうんでしょうか3巻、誰か彼らに救いの手を。
何故カビザシだけガウナに効くのかとか何故28本なのかとか
気になる謎はあるけどそれよりももうなんというか心配でしょうがない。
でもまとめて読みたいから単行本を待つのだけれども
クオリティの高さに対して刊行スピード早いけどでもでも早く続きを!
3巻刊行予定の夏まで待てるでしょうか私!
こんなこと書いてて明日には雑誌読んでるんじゃないか!
今出てるアフタヌーンの表紙が可愛い長道とイザナなんだよなー……


2巻の帯で椎名誠氏が書いていますが、まさしく
激しくてやさしくて
不思議な世界。

ハードSFを読みなれていない方にも是非チャレンジしていただきたい、
鬼才の意欲的な最新作です。

 

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Gファンタジー3月号感想文

毎月恒例にして自分の首を縛っていてかえって良かったかも。
さぼり癖が直りませんが、決めたからにはこれだけはなんとか。

以下例によって。


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山口芳宏『学園島の殺人』

……実は私、こっそり反省しておりました。
世間的評価の定まったベテランにならともかく、新進気鋭の作家に対して
前回のエントリーは厳しすぎたのではないかと。

せめてシリーズものなら2作目以降も読んでから、
いろいろあれこれ書くべきだったかもと。

いきなりしんみり状態から入ったのは、
そんな義務感から買った新作『学園島の殺人を読んで、
シリーズ1作目『妖精島の殺人』
大乱歩のような耽美さや幻想性を求めた私の方が
あきらかに間違っていたのだということがよくわかったからです。

この人はそういう作家さんではないのだ。
それをはっきり悟りました。
見当違いの方向で落胆して申し訳なかったとむしろ謝罪の方向で。

というわけで『学園島の殺人』
がらりと趣を変えて、著者本人がカバー折り返しで
「中高生に読んでもらいたい」と書いているように、
ハッキリ言ってジュブナイル。

筆が軽快で、読むスピードも一作目より三倍くらい早い。
著者が楽しんで書いているなあということが伝わってきます。

今回も最初のみ語り部の違うシステムなのですが、
前回の柳沢氏と違って今回は甘酸っぱい女子高生ですし、
柳沢氏のように無駄にくどくもなく、
さくっと謎に入るので読みやすいです。


舞台は全寮制の学園を中心に、そのOBや研究者で構成されている、
貨幣制度に至るまで独特のシステムを持った島。
交通網も独自に発達し、島の中で生活がすべてまかなえる
整備された高度な学園都市ですが、
式神地区という場所にいわゆるスラムが構築されてしまい、
問題視されています。

その学園の生徒である葉子は、親友の桜から不穏なメールを受け取り、
寮から姿を消した彼女を探していたところ、
存在しないはずの列車と、伝説の黒いサンタクロース、
そして放置された生首を目撃する――



島シリーズということで
貧乏な主人公たちの交通費や滞在費が懸念されましたが、
今回は国会議員様の依頼ということでその心配は要りませんでした。

とにもかくにも主人公森崎と探偵真野原は、
その学園の理事長として名前だけ貸している国会議員に頼まれて、
生徒と教師として潜入し、捜査をすることになるわけなのですが……

まあ、はじめからRPGだのエロゲだの、
「集英社ばかりだがいいのか」と楽屋落ち含めた漫画ネタだののオンパレードで、
この馬鹿げた漫画じみた設定のクッションを作ろうとしてますが、

ぶっちゃけあほらしい「再生の書」だのなんだのという設定を、
許せるか許せないかが
今後このシリーズをずっと楽しめるかどうかの境目だろうなと思うわけです。

中高生向けの漫画の設定だと思えばまあ、多少目をつぶって読めるか…
というくらいのスタンスで読み進めると、
その大きいが正直どうにもあほらしい謎ときよりも先に、
ちいさな、達成感のあるクエストがいくつか用意されていて、
そういう「読者を退屈させない趣向」はこの人の巧い所だなあと思います。

そしてそのちいさなクエストをこなしている最中に、
「生首の高速移動」という、いかにも本格推理らしい謎が読者に提示されます。
ここから「再生の書」のばかばかしさが薄れてくるので、
ここまでくれば最後まで読まされてしまいます。

というわけで最後まで読みましてその感想は、
『妖精島』よりさきにこっちを1作目にすべきではなかったのかと。
筆が明るくて読みやすかったし、
『妖精島』よりずっとキャラクターが生き生きしていましたし。
作者の持ち味とか個性とかが、理解しやすいし。








……いやでもですね、うん、
新人の作品を読んでもレビューどころかタイトルすら出さないことも多い中で、
こうして2作もレビュー書いてるんだから、
きっと私はこの人に何か期待するところがあるんだと思うのですよ、
だから厳しめのことも書いてしまうのですよ……と予防線を張りつつ。

以下厳しめの意見が続きますので嫌な方は避けてください。










ミステリなんだから暗号は作ろうよ。




「なんだか謎の文字が書いてあってそれを専門家に頼んだらこう解読されました」は
ないでしょうよ。



「再生の書」という設定そのものがこのうえなくリアリティがなくてばかばかしいのだから、
せめて「暗号を自力で解く楽しみ」くらいミステリファンにください。
物語上必要な設定としては「簡単な暗号」で良いわけなのだから、ちゃんと考えましょうよ。
暗号として最初は読めなくてだんだん内容がわかってきて、って流れがあれば
このばかばかしい設定ももう少し入っていきやすくなったのに。


主眼であった「生首の謎」に関してはよく出来てると思います。
理屈としては。
ああいう感じのトリックを作るのが好きな作家さんなんだな、と理解しました。
が。
心情的にはなにひとつ理解できません。

あのトリックを作ったあの人はキ(出版禁止用語)か?
こんな性格破綻者というか狂人の行いを、
「遊び心」とか……いろいろ本気ですかなんなんですかあの人たち。


今回は小さなクエストとか救世主とか、RPGを意識させようさせようとしているけれど、
作者までゲームを作ってる気分になっちゃいましたかと思わざるを得ない。
そのへんの筆加減を、
一応新人さんなんですから編集の人はもうちょっとセーブさせてくれないと…
「ああ、やりすぎたな」と思う箇所がちらほらあります。
地力はある作家さんだと思うので、そのへんの匙加減を覚えていただければなあ…


要するに物語のための、あるいは作者が楽しむための設定が、
先に勝つ癖のある作家さんなのだと思います。

小さなことですが、たとえば菜緒子さん。
彼女は優秀で心優しくお金持ち、隠し切れない品のある明るい美人さんで、
「同性にファンクラブまであるほど」という
物語上必要ない設定が語られるのですが…

私のような読者は彼女に、「まだ語られていない壮絶な過去」があって、
そのために彼女がいろいろ複雑な心理状態にあることを匂わされているから、
彼女に対しての好悪の判断は保留状態になっていますけれど、

物語上彼女に接している「その他大勢のキャラクター」たちはそうじゃない。
目の前にいる彼女だけを見て彼女を判断するわけですよ。

で、付き合ってもいない、幼馴染ですらない男の下宿に薄着で上がりこんで
勝手に掃除をし、勝手にエロゲを捨て、「見せパン」などといって下着を見せてからかい、
いろんな男性に気を持たせるそぶりをくりかえし、
あまつさえ路上で好きでもない男とあまり気にせずディープキスをするような人に対し、
男性はともかく、はたして女性が「ファンクラブ」を結成するものでしょうか?



無茶言うな。
さすがの森崎だって怒ったわけですよ。
その行動の理由を知らない周囲の女性はもっと不愉快でしょう。


まあ『妖精島』の柳沢のくだりでさんざん書いたことなのですが、
この作家さんは、男女の機微というか、恋愛関係を描くのが巧くない。
そのせいで菜緒子が割を食ってるんだろうなと感じます。
少年向けジュブナイルだと思えばまあいいかと思うのだけど、
少年向けジュブナイルだからなのか妙に色気のあるシーンを描きたがるから、
ちょっと気になってしまいますね。


レビューを書くのを放棄した某新人さんの作品に比べれば、
山口芳宏さんは女性キャラクターを大切に描いてるとは思いますけど、
それでもね、やっぱりね。
どんなリベラル思想だか知らないがそんなことのために
いくら消えるとはいえ娘の肌に針を入れさせる親ってなんだそれ馬鹿野郎。
笑えません。

そもそも。

なぜあの王国の王女の話が必要になるかわからない。

王国の方に何のメリットがあるのですか。
引き受ける方がまったく理解できない。
王女の人生なんだから、ゲームじゃないんですから。

豆腐のくだりまでは笑えました。面白かった。
しかし麻雀で王位継承権云々はやりすぎた。
それは笑えません。
国民がいるんだから、ゲームじゃないんだから。

厳しい意見の方がどうしても冗長になるものだから、
全体的なイメージとしてダメな本として読んだように見えるかもしれませんが、
繰り返しますが明るい文章で、飽きさせない展開で、楽しく読んだんです。
面白かったんです。
だから「ああもうこれがなけりゃ~!」と思ってしまうわけなのです。
ダメな本だったらそもそも何も書かないですから!


いろいろ考えながら書いてるうちに、心情的な流れより設定が勝ってしまうことや、
面白いシーンを書いていて筆が滑ってやりすぎてしまうことは、
新人のうちはどうしたってあるものですし、新人のうちはまあ見逃せますけども、
編集さんはそのへん、ストップをかけたりするのは仕事のうちじゃないんでしょうか…

編集さん仕事してんのかよとどうしても思うのは、

表紙のイラストのせい
で、
物語中盤以降まで作者が隠しているある秘密のうち2個が、
ミステリ読み慣れた読者には最初からバレバレだっていうことなんですよ。
「やっぱりそうだった」と明かされたとき、正直アホかと突っ込み入れましたもの。

この絵師、いい絵を描きますけども、絵自体は好みですけど、
嫌がらせなんですかそれとも天然なんですか
それとも「本格ミステリ」がよくわかっていないのですか。

表紙のラフが上がってきたときにダメ出しするのは誰の仕事?



いろいろ書きましたがしかし全部、少年向けの漫画だと思えば許せる範囲。
中高生向けのライトノベルレーベルならば、
「意外なところに本格的なミステリを書く力を持った作家がいるぞ!」
というスタンスで紹介しているであろうと想像できます。

そういう心構えで読むと、普通に笑いながら楽しめると思います。褒めてるよ。

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石川雅之『純潔のマリア』1巻。

本日買ってまいりました『もやしもん』の作者石川雅之氏の新作。
タイトルだけはずっと前から知ってましたが雑誌未読のため、
何の情報もないままコミックス読みましたともさ。


……何の情報もないのに、
『純潔のマリア』なんてタイトルから主人公の少女は
美しくたおやかで夢見がちでやさしくて従順で……などとは
まったく微塵も想像してなかったわけですが。
だって石川先生だし。



聖母マリアを連想させるタイトルに対して、
主人公マリアはアンチキリストの立場「魔女」。
舞台は中世ヨーロッパ、魔女狩りの嵐が吹き荒れている
百年戦争まっただなかです。

石川先生の線の多い骨太の絵が、
百年戦争の舞台にリアルな質感を醸し出しています。
舞台に絵がすごく似合います。

閉塞感漂う荒れ果てた世界で、
強大な魔力を持ち健全な精神を持つマリアは、
サキュバスのアルテミスを使役し、
軍の指令系統を性的な意味で骨抜きにするという手段を用い、
「人を殺すことなく目の前の戦争をやめさせる」日々を送っています。

そんなおピンクな魔法を使うマリアですが、
タイトルの通り自分は未経験
手段はサキュバス任せなので、
何が起きてるか具体的なことは何も知らないおぼこっぷりで、
アルテミスにからかわれる毎日。



というわけでマリアが可愛いです。萌え狂います。
特に女と男色家用に男の淫魔、インキュバスを作れと
アルテミスに進言されるくだりがもう、強烈に可愛いのでとにかく読め



なんとか作ることは作ったインキュバスと、サキュバスは
人間型のほかにフクロウの姿を持っている、というか
フクロウがベースなんですが、



maria1.jpg

こんなに基本緻密な、線の多い描写な漫画なのに、






maria2.jpg


……これ「フクロウ」なんですって。





フクロウと呼ばれてたしそう書いてあるけど、
絵と結びつかなくて「これはなんだろう? こういう魔物?」と
しばらく悩んだ。
もやしもんの菌みたいなものだと思えばいいのでしょうか。
リアルな姿は別にあるけど便宜上この姿という……えーと。


……まあともかくウブで可愛くて意地っ張りで脳みそ小娘で、
でも強大な能力と行動力と正義感を持つマリアの暴れっぷりは、
とても爽快感があって読んでいて楽しいです。


しかし読者が爽快感を得るほど派手に暴れまわっていたら、
大天使ミカエルに目をつけられました。
神の名の下に非道が行われることを看過する天使は、
しかし魔女が魔力を持ってそこに介入することを認めないというスタンス。

現世利益、八百万の神の国の人間の私ですから、
どうしてもミカエルの言い分がわからない。
どうしてもマリアの方に肩入れします。

多分日本の読者は殆どがそうだと思うのですが、
漫画がグローバル化した現在、舞台となっている世界に住む
舞台となっている当該宗教に身を浸している世界の読者は、
ミカエルの言い分の方に肩入れするのだろうか、と
考えてもみましたが、うまく想像できませんでした。
だってヤハウェは気に入らねえって理由で洪水起こしたりいろいろしてんじゃん…


もしかしてマリアは「魔女」という人外で、
人間のカテゴリには入らないということなのでしょうか?
特殊な能力を持っただけの人間、ではないのか?
ミカエルの言い分に正当性を認めるためにはその前提条件が要る。私には。

とにもかくにも、ミカエルのせいでマリアの行動に枷がつきました。
そしてタイトルと連動させて以下続刊。
またまた続きが楽しみな漫画が現れてしまいました、収納どうしよう。

もやしもんとは全然違うアプローチで、でもムチャクチャこちらも面白いです。
石川先生の引き出しの多さに感動します。
巻末の「正しいゴーレムの作り方」まで大笑いしました。天才だこの人は。



…………ただ、

maria3.jpg



……「主役級の美形顔」にはもうちょっと引き出しが欲しいかな!
まあアルテミスはマリアの10年後という設定だから似てるのは当然としてもですよ……


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高野真之『BLOOD ALONE』6巻。

5巻発売より約2年
待たされましたねえ。
多分同じ人はいっぱいいると思うけど、私間違って5巻を2回買ったからね!

それでも新刊が出てるとなんだかんだで買ってしまい、
何度も何度も1巻から改めて読み返させられる『BLOOD ALONE』

何度も何度ももう何年も読んでいるのに、
1コマ1コマがまったく飽きない、不思議な魅力に溢れています。

しかしひとに薦める時には説明の文言が難しい。
吸血鬼少女と人間のほのぼのホームドラマ?
吸血鬼の血族をめぐるバトル漫画?
モテモテ鈍感クロエをめぐる、ラブコメディ?
どれで説明しても全部本当で、全部間違ってるような気がします。

ではあらすじを説明しようかと思っても、
主役のミサキとクロエからして過去がまだ曖昧で、
立ち位置が微妙で説明しにくい。

だからというわけでもないのでしょうが、
必ず新刊の帯についてくる本文抜粋の、
絶対に誤解されることを狙っている内容紹介が、
「これでいいのか」と思いつつも、毎回楽しみだったりします。

今回6巻の帯は下着姿のレディに襲われるクロエ……
……いやさすがにレディ相手にその誤解は無理だわ編集さん。



主人公の湊ミサキは小学生くらいの外見の少女です。
なんでこんな曖昧な言い方かというと彼女は吸血鬼だからです。
ただ精神年齢もあまり変わらないので、
まだハッキリと本編で明かされたわけではありませんが、
彼女が吸血鬼になったのはここ最近の出来事のはずです。

吸血鬼ですが彼女は一ヶ月に一度血を飲まなきゃいけないことと、
昼間に外を歩けないだけで、
いたって健全な精神の、普通のおしゃまな女の子。

彼女の中には吸血鬼の血族の中でも希少価値の高い「太古の血脈」が
息づいているのですが、今のところそれは彼女自身を変えてはいません。

彼女は作家の黒瀬クロエという成人男性と一緒に暮らしています。
ミサキはクロエが大好きです。
まだ子供なので淡い恋愛感情であり、クロエには相手にされていませんが。

misaki.jpg

読書家で意地っ張りでオシャレさんで可愛いミサキ。



クロエの説明が難しい。

「万能の魔法使いクロエ」と同名にしてその弟子
時間を操る能力を授かった狩猟者(ヴァナトーレ)、吸血鬼を狩る者。
日本で売れない作家をやりながらミサキを養いつつ、
探偵という職業をやってるらしいがそのシーンはあまりない。

昔、最愛の姉を攫った<真実の眼>(アデヴァラート・クライ)という
吸血鬼を探しているが、
養い子のミサキがその血脈にされてしまったため、
(同じ血脈の吸血鬼はその親玉に操られてしまうので、
ミサキを連れて探すわけにもいかないし、子供のミサキを置いてもいけない)
現在は身動きが取れていない状態。


motoe.jpg

学生時代のクロエとその最愛の姉モトエさん。
どんなにモテてもクロエがまったく女性を相手にしないのは、
クロエはモトエさん一筋だからです。
ここ私の最大萌えポイント。




……多分、これで合っている筈だ。多分。




こうして列記すると
たいへん壮大な吸血鬼血脈バトル漫画設定が詰まっているんですが、
ミサキとクロエのほのぼの日常漫画を軸に
じわーとその設定が匂ってくるだけなので、
あまり詳しいことが読者にはまだわかりません。


だが1冊出るのに2年必要な挙句、もう6巻です。
じわじわバトルも増えてきたし、クロエの過去もわかってきたし、
「真紅の剣」(インシグラット・スパルダ)なんてわかりやすい敵も出てきたし、
そろそろエンジンかかって<真実の眼>との対峙に向けて
物語が大きく動き出すのかなと思ったんですけども、





動きませんねえ。





クロエがはじめて倒した「古い世代」(アルハイク)の吸血鬼の娘が出てきて、
これは「真紅の剣」の謎や構成がわかる前フリかと思ったんですが、
どうも固いシノノメに替わって登場したラブコメ要員に見える…………

これだけの過去と壮大な設定と能力を持ったクロエ
6巻で何をやったかというと、


風邪のシノノメの看病をして
ヒグレ様に借りを返せと言われて悲恋のレンフィールドを捕まえて
有名作家に相談を持ちかけられてその役目をミサキに奪われ
締め切りからの逃避で掃除機かけたがったり映画見たがったり。


特に28話「あなたのために紡ぐ言葉」は
あれ? これ『Papa told me』だったっけ? と思いました。




相変わらず本筋が進みません。
ミサキとクロエのほのぼの劇場、
「お砂糖3つは子供っぽいもの」とかそういうかわいい話が本筋かもしれませんが!
「やさしい姉に夢中な弟萌え」(そうです、兄でなくても可)のワタクシとしては、
モトエさんの話が気になってしょうがないわけでして。

ミサキが可愛いのでほのぼの劇場も大好きなわけですが。
いいんですが! 6巻はミサキの出番が少ない!



モトエさん救出の話も進まずミサキの出番も少なく、じゃあ6巻は何なのと問われれば、



ヒグレ様でした と言わざるを得ません。



higre.jpg

ヒグレ様――――!!!





同属食いまでさせられたヒグレ様への「借り」を返すのが、
こんな程度のことでいいとは思わなかったです。
お優しすぎますヒグレ様。

どうしても様付けで呼んでしまうショタ外見ながら最も古い血脈の王、
「アルハイク」のヒグレ様です。
ショタ外見ながら中身おじいちゃんです。
たいへん能力が高く、近隣の吸血鬼を束ねる「ボス」。
飄々としてつかみ所がなく恐ろしい人ですが、

なんかやたらやさしいですねこの人。いや吸血鬼。
なんでヒグレ様はミサキにこんなに甘いのだろうと思ってましたが、
どうもミサキにだけでなくてまんべんなく甘いな!
マリアも幸せそうでよかったよ!


吸血鬼に血を与えられ半不死になり、その吸血鬼の奴隷となる「レンフィールド」
レンフィールドは精神を親元の吸血鬼に完全に支配される存在なのですが、
マリアを筆頭にヒグレ様のレンフィールドはみんななんだか自由気まま。

そして今回のレンフィールドと吸血鬼シズカの悲しい物語、
そして沈み込むヒグレ様を見てから、

改めて一巻のヒグレ様とそのレンフィールドのやりとりを読み返してみます。

higre2.jpg


最初に読んだときは「可愛子ぶるヒグレ様」に笑うギャグシーンだと思ってましたが、
読み返してみると切なくなってきてしまうのでした。
ああ説明し忘れましたがヒグレ様はそういう趣味の方です。


6巻はいきなりの「万能の魔法使いクロエ」、レディの下着姿でびっくりしましたが、
それよりもなによりも、やはり
茶系を扱わせると日本一の絵師だなあ高野真之先生。
色使いの美しさに見惚れてしまいます。

そうなんです冒頭で書いた「不思議な魅力」の第一要素は、この情趣深い絵にあるんでしょう。
特に茶系統でまとめた表紙イラストは素晴らしいです。
茶系統の時に比べると、6巻の青系統の表紙は正直今ひとつかなあと思いますが、
ミサキが可愛いのでこれはこれで!


たいへん説明しにくいスロー吸血鬼物語。
気の長い人にはお勧めです。


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京極夏彦『数えずの井戸』

京極夏彦の新刊ですよ。

「一枚足りなーい」でお馴染みの、番町皿屋敷換骨奪胎。
たった今読み終わったばかりです。

四谷怪談換骨奪胎『嗤う伊右衛門』がすごく好きだったもので、
本日書店で見かけて即座に買いました。
そしてはじめて知った、江戸怪談シリーズ三作目だったのですね。

又市とか(名前だけとはいえ)宅悦とか
『嗤う伊右衛門』に出てきた人たちが登場してて、
あれこれもしかして実は「又市シリーズ」なのだろうか、
続けて読まなきゃわからないこともあるのかなあと思いつつ。
二作目である『覘き小平次』は未読のまま番町皿屋敷レビュー参ります。



番町皿屋敷についてどれだけご存知ですか?



私はそういえば何を知ってるかなあと思い返してみて、
「10枚揃えの家宝の皿を一枚割った菊が、
殿様にお手討ちにされ井戸に捨てられ、
夜毎その井戸に化けて出て皿を9枚まで数え、一枚足りないと呟く」
ということしか知らないことに今頃思い当たりました。

だがそんな酷い目に遭っていながら皿を数えるだけなら、
はたして何百年と語り継がれるだろうかそんな害のない幽霊。

そういやなんかどろどろの男女の愛憎劇がどうのこうの、って
話を小耳に挟んだこともあったかなあとおぼろげに思い出しながらページをめくると、
ご親切に巷間伝え聞く番町皿屋敷怪談のあらゆるバージョンが、
はじめにいくつも示されてあります。

そしてあらためてどれもこれも、
「菊が夜な夜な井戸で一枚足りないと呟く怪異」
引き起こす理由付けにはなっていないことが明確にわかるわけです。

当然
「どうして菊は化けて出て皿を数えるのか?」
という疑問を持って、
読者は頁を読み進めるわけですよ。
この最初の大きな疑問を解こうという強い意志があるので、

出てくる登場人物がどいつもこいつも好きになれなくても、
誰も彼もにイライラしても、スラスラ読み進められる仕組みです!
さすがですね京極先生!
……ぶっちゃけたよぶっちゃけたよ私。

いや本当にですね、単に私の個人的な好みですよええ、
登場人物みんな、びっくりするくらいイライラするね!


『嗤う伊右衛門』のような美しくも悲しい恋物語だと思って読んだら、


なんというかダメ男二人の間違った愛情表現に、
それも多分に相手のためというより歪んだ自己愛の投射によって、
まわりの人たちが関係ないのに巻き込まれてメチャクチャにされましたという、

……三行でまとめるともう救いようがないです。



『嗤う伊右衛門』に比べると倍くらいぶ厚いんですけど、
正直繰言が多すぎます。

「それさっき聞いた」
とツッコミたくてしょうがありません。
新聞連載していたそうなので字数制限とか引きの関係とか
そういう問題もあるのでしょうが、内容的にはこの頁数要りませんよね。

むしろこの頁数があるのなら、

もっと菊を、菊の内面を、その善人性を、過去に彼女がされてきた仕打ちを、
掘り下げて描けたんじゃないかと思うのですがどうでしょう。

彼女に読者がもっと共感しやすいように、
彼女がどんなに自分に不利になっても嘘を突き通すその心根が
もっと美しいものであると読者が思い込めるように丁寧に描いてくれれば、
菊の追い詰められている心情をもっとエピソードによって描いてくれてれば、
私の読後感は全然違ったんじゃないかなあとそれは本当に残念です。

「私バカだからわからない」と言って周囲を斬り捨てるのは、
「なんかもう面倒だし何もかもどうでもいい」と言って周囲を斬り捨てる殿様と、
満ちてようが欠けてようが、同じとても冷たい心持だと私には映ります。
又市や徳次郎が最後に嘆くほど菊を美しいようには見えないんです。

殿様はもう本気で途中で「早く誰かこいつをぶん殴れ」と思ったし。
まあ救いは三平くんがいい男だったことですが。
三平くんは本当に心底かわいそうです。

まあダメ人間勢ぞろい大会だからこそ
この太平の世で旗本のお武家様が
たかが皿でお家崩壊するわけで、
マトモな判断力と決断力と行動力のある利口な人がいたら
こんな悲劇にはなってないわけで、
登場人物みんなに腹が立つのは当然のことなのでしょう。

でもやっぱり読後感がよくないのは、
前述の通り菊が「何故そこまでするのか」に対しての説明が
つきつめていうと「バカだから」という身も蓋もないものだということと、

主膳と播磨の人間関係がいまいち伝わってこない、ということ、
殿様播磨は特に何の思い入れもないことはよくわかったけれども(笑)、
主膳がどうして播磨にあれほど執着するのかがよくわからないので、

主膳の中で分類できない複雑な感情ならそれはそれで、
これだけのページ数があるのだから、
播磨との道場での日常的な何気ないやり取りから、
徒党を組んで悪さをするときの会話や表情、
そういったエピソードを積み重ねて読者に「思い入れ」を
持たせておくのは必要だったのではないかなあと思うのですよ。

播磨は何にも興味ない。何か欠けてる。
菊はバカ。私のせいで収まるならそれでいいや。
主膳は播磨を、世界を壊したい。
十太夫は褒められたいだけの器の小さい善人。
吉羅は手に入る欲しいものは必ず手に入れる主義。

ただそれだけのことを繰り返し繰り返し己に語らせるだけではなくて、
具体的なエピソードの積み重ねが欲しかった。

みんながみんな自分のことを「自分はこういう人間だ」と自分で語り、
そしてそこから変わろうとあがくわけではないので、
最後のカタストロフィでも読んでいるほうの感情も高ぶらず、
ただひとり己の枠を越えた三平くんにのみ、心は揺れました。

そして最初に提示された
「何故菊は化けて出てただ皿を数えるだけなのか?」
という大きな疑問に対して示される答えは、
菊に感情移入できない、菊に強く同情できない読者にとっては
「え? それだけ? それだけの理由?」という……
ここまでその疑問で引っ張ってきてそれはちょっと肩透かしな…


どうしても『嗤う伊右衛門』と比べてしまうので
読み方が厳しくなってしまうのは、
傑作を書いた作家の悲しい宿命なのでしょう。
多分、先にこっちを読んでたら
こんな厳しめのレビューにはなってなかったろうと
自分でも思います。

ただやっぱり納得がいかないんだよ!

長屋と武家屋敷がどれだけ近い位置関係にあるんでしょうか。
「何があったか誰にも判らない」とはいえ、

菊が斬り伏せられて播磨が小姓を長屋に遣わす判断をして、
小姓がとにかく長屋に行って菊が死んだとお静に告げて、
お静が呆然としつつも三平に伝え、
三平と静と徳次郎と三人で青山家に行き、
あの状態を目撃する、というのは

え?

と思うわけですよ。
ちょっと難しくないですか。

長屋が武家屋敷の三軒隣にあるわけじゃないだろうし、
小姓は長屋に知らせに行くそれ以前に
あるいはそのすぐ後に下命に背いてでもやるべきことがないですか?
なんで発見がそんなに遅れる? 
小姓何してんだ?
あなたが長屋に行けと播磨に言われたのは、
狼藉者が現れて腰元斬り殺されてお殿様に刀向けられてる最中でしょう?

主膳も主膳で、播磨がテキパキ(?)と
菊の遺体の引取りの算段をつけてる間
黙って見てたわけですか?
黙って小姓を外に出させたわけですか?

難しいでしょう。

ちょっとどう考えても時間的にも感情的にもいろいろ無理があるでしょう。
番町皿屋敷のすべてのバージョンを内包する物語
を作るというテーマなのでしょうが、

無理がある部分、難しい部分は
「目撃者がいないので本当のことは判らない」で曖昧にするのでは、
わざわざ有名な、誰でも知っている「おはなし」を「独自解釈で語り直す」ことの
意義そのものが失われると思うのです。
物語の美しさを優先し、捨てるべき説は捨てても良かったんじゃないのでしょうか。



まあとりあえず足りないなと思う部分は脳内で勝手に補完して、
主膳それ恋だYO! とツッコミながら読み返せば、
この悪い読後感も少しは救われるんじゃないかと思います。
……いや腐女子の悪い癖じゃなくても
昔の日本で衆道なんか当たり前なんですからして!


いろいろ厳しめのことを書きましたが
それでもさすがに京極夏彦先生
このぶ厚さを飽きずに一気に読ませる素晴らしい筆力でして、
人それぞれキャラクターには好みがありますから、
誰か好きになれるタイプがいたら引き込まれてしまういい本だと思いますよ。
特に播磨の虚無感は、この太平の日本では共感する人が多いかもしれません。


江戸怪談換骨奪胎シリーズはこのまま続くのでしょうか。
ならば鍋島の化け猫とか是非読みたいです。

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アイツの大本命3巻発売中。

BLです。
ボーイズラブです。

いや逃げないでまあ待て今まで百合だの女装男子だのさんざんやってるんだ今更。
百合はよくて薔薇はダメとか勝手なことを言うんじゃない好き嫌いしないで何でもよく噛んで食べなさい。


……いや年末年始でサボリ過ぎてて、
レビューを書く為のモチベーションの上げ方が下手になりました。
読んで面白かった本はいっぱいあったんですがどこから手をつけていいかわからない。
なんか今更この本について私如きがごちゃごちゃ言うのもなあ、なんて
身も蓋もないことが頭をよぎっちゃうとダメですね。



というわけであからさまに開き直ってみました。



BLレビューをやるなら絶対この人からにしようと決めていた田中鈴木さん。
どこまで苗字なのかそれとも名前なのかわからない田中鈴木さん。
リブレ出版からこのたび3巻目が発売されました『アイツの大本命』
このタイトル発音するときにどうしても
「スイカの名産地♪」
と同じになるのは私だけでいいです。


傾向やジャンルや萌え属性にかかわらず、
新刊が出たら名前だけで買う作家さんはあまたいらっしゃいますが、
田中鈴木さんもそのひとりです。
BL以外を出してもこの人なら買います。

作者の名前が田中鈴木
『アイツの大本命』の主役は佐藤(攻)と吉田(受)。
この気取った雰囲気が皆無のシンプルさが好きだ!
BLなのにね!


吉田くんはツリ目でチビで女子人気皆無の童貞ブサイク君です。
くどいようですがその吉田くんがです。
受というのは専門用語でネコです。ゲイの女役です。
どんなルックスかというとこの下にいる方の人です。↓

tanakasuzuki1.jpg

上でアップになっているのが佐藤くん(攻)です。
専門用語でタチです。ゲイの男役です。
キラキラしてる超イケメンです。
学校中の、いや近所中の女の子が
どんどんおかしくなっていくくらいのイケメンです。
女子がどんどんおかしくなっていくのを苦笑いで見守るのも
このお話の魅力のひとつです。

モテモテ佐藤くんは女の子たちの誘いを角を立てずに断るために
「吉田と約束があるから」という言い訳を多用するので、
吉田くんは女子の敵になっていきます。

別に仲良くもないし約束もしてないのに言い訳に名前を使われるため、
「少しは遠慮して佐藤くんを女子に譲れ」と責め立てられる毎日の吉田くん。
ただでさえブサイクでモテないのに
イケメン佐藤のせいでこのままじゃ彼女なんか夢のまた夢。

まあカテゴライズBLですし次の展開は読めますよね?
モテモテで皆にいい顔していて何でも出来る佐藤くんの本命は、
ツリ目チビブサイクの吉田くんなのでした。

……ところで佐藤くんが吉田くん本命なのに、
吉田くんを窮地に追い詰めてしまうほど周囲にいい顔をし続けるのには
あるトラウマが関係しています。
彼は本性がどSのいじめっこなのですが、
それは吉田くんにしか見せない顔なのです。
……3巻ではSの顔がダダ漏れになってきましたが。

基本世話焼きでいい奴な吉田くんは、だんだん佐藤くんにほだされていくという
BL王道な展開ゆ―――っくりやりつつ、

ラブなシーンはあまりにも少なく、
色っぽいシーンは皆無に等しく、

じゃあ3巻も何をやってるかというと、


なにしろ高校生男子の青春物語ですから、
たとえばこの3巻ですと、合コンとか!








goukon.jpg

※合コンです。






同級生の可愛い子ちゃんにセッティングしてもらった合コンに
吉田くんとそのモテない仲間で参加したりとかしてました。




斬新な自己紹介とかされてました。

goukon2.jpg

※BLです。





あと、あとはそうですね、モテモテ佐藤のライバルが現れたりしましたよ!
受が何故か男にモテモテで攻がヤキモキ、BLの王道でしょう!?



しかも外面はいいけど内面いじめっこな佐藤くんと違って、
ライバル西田(またこのシンプルな名前)くんときたらとてもよい人。

どれくらい良い人かというと彼を町でふと見かけると、


iiyatu.jpg



息をするように善行を重ねてる超好青年なのですよ!





iiyatu2.jpg



見てるだけでこっちの息が切れるわ!






……要するにBL本ということになってますが基本ギャグマンガです。
3巻のあとがきでは作者自ら

もっと笑えるものが かけるよう がんばりたい!! です

と書くくらいです。
BLレーベルから出てるので一般読者の目にあまり留まらないであろうことが
たいへん悔やまれる作家さんなのです。

あ、でも「恋愛もの」としてもちゃんと好きですよ。
もう一組の同時進行ブサイク受カップル山中×高橋のダメっぷりも最高です。
ブサイク受という新興ジャンルですが、
吉田くんも高橋くんも心根がピュアなので、
なんだかだんだん可愛く見えてきます。


……が。

『転校生・神野紫』のときにもつくづく思いましたが、
田中鈴木さんはBLレーベルでなく一般誌で描かれるべき方じゃないのかなあと。

特に神野紫は一般誌でちゃんとバトル中心で読みたかった。
女の子もみんな魅力的だったし、それぞれキャラクターを掘り下げて、
全12巻くらいで少年漫画テイストにちょっとBLが匂うくらいの立ち位置で
描かれるべき物語だったんじゃないかなあ勿体無いなあ…


BLレーベルでももちょっと日常ラブ要素以外も許してくれるようになればいいのに。
昔は壮大なテーマに同性同士の恋愛要素がちょっとある、くらいの
少女漫画がいろいろあったものですが、

BLというジャンルが花開いてからこっち、
男同士の恋愛を描きたいならこっちで描きなさい、
ただしテーマは男同士の恋愛、のみ! ですから!
という方向性が決め付けられてしまった感がありませんか。
気のせいですか。

きっと何につけそうなのでしょうが、
自由に気ままにそこにあったものが、
名前をつけられ分類されると
たくさんの人にわかりやすくなるけれど窮屈になる、という悲しい現象。

BLは好きだけれど
日常的な僕たちラブラブばかりだと寂しくなってくるわけなのです。

同性とか近親とか身分違いとか敵同士とか、
要するに私は単に「障害の大きい恋愛」を読むのが好きなんだと思います。
そしてできれば、恋愛以外のことも一生懸命な、真摯で真面目な人たちの…

田中鈴木さんのような才能が、自由に飛翔できる場所って今はないのかなあと、
カテゴライズされていなかった雑多な昔の漫画界を懐かしく思い出します。
昔は少女漫画雑誌にフツーに
ホモもレズもSFも時代劇もファンタジーも西部劇も本格的なものが載っていたのに。

学校内での恋愛話以外少女は読まないと決め付けてるのは誰だ?


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Gファンタジー2月号感想文

新年一発目の恒例行事。
ネタバレしまくりますので嫌な人は以下を読まれませんように。





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