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汀こるもの『赤の女王の名の下に』

THANATOS(タナトス)シリーズ最新作です。

メフィスト賞を受賞した「パラダイス・クローズド」から続けて5冊目。
刊行ペースが早いなあと思ってたら、
この5冊目までメフィスト賞に応募していたらしく。
森博嗣先生といい、メフィスト賞ってのはシリーズものをまとめて書いて
まとめて応募する賞なのでしょうか。そういうものなのか。担当付ってことなのかな。謎。

メフィスト賞に応募していたと言われれば成程というか、
ちょこちょこファウストの引用が入ってきます。
前作までは美樹の人物紹介には「死神(タナトス)」と入っていても、
真樹は普通だったのに、普通だったのに。

とうとう人物紹介に名前まで省かれて



「メフィストフェレス

死神」



としか書かれなくなってしまったシリーズ主役の立花家の双子。

しょっぱなからびっくりですよ。真樹悪魔扱いですか。
死神扱いされる情緒不安な兄の唯一の味方、兄を守る高校生探偵だったのに。
謎は解くけど犯人は捕まえない捻くれた名探偵、
そういう役どころだったはずなのに。

死神と悪魔って。変わらないでしょそれ、世間一般の扱い的に。

しかしその粗雑な扱いも然り、今回はまさかの湊警視正視点でございます。

前作でキレた真樹の暴挙のせいで、立場がまずくなったことはわかっていましたが。
いやまさか主役を張ってくるとは!

これまでは、やたらと欧米文学を原文で引用したがる気障で冗談下手な警察官僚、
自分は安全な場所にいて部下に汚れ仕事を押し付ける典型的なお役人、という
イメージくらいしかなかった湊警視正、よもやこんな面白い人だったとは…!

もう最初から、湊さんが口を開くたび笑いを堪えるのが大変で。
折り返しの作者コメントに、「貴方の中にも湊のかけらはあるのかも」とありますが、
いや本当に、講談社ノベルズを読んでるような読者はその殆どが、

「あるあるあるあるある」

と自嘲とともに呟いていると思います。

最近多いネット掲示板への犯罪予告書き込みでの逮捕で、
容疑者の部屋の大量の本から「悪書が精神に及ぼす影響を調べる」という
最初に結論が用意されているマスコミの大好きなくだらない分析をやるハメになり、
湊警視正はこうのたまいます。

「見ろ、夢野久作が入っている。
私以外の者がやったらどうなる?
衆愚に『ドグラ・マグラ』を検閲されてたまるか!」

この一言で私はこの人を大好きになりますよ。もう充分だ。

いやあもうこんなにいろいろ魅力のある人を5冊目まで温存していたとは。
高校時代の思い出話から最後の頁に至るまで、湊さんには笑わされっぱなしだ!
そして古傷やら弱点やら突かれっぱなしだ! 泣くぞこんちくしょう!
……ちょっと泣けますよ。

思春期の万能感を失った人間は、17歳がまぶしいね。
あの頃は苦しんで傷ついてのた打ち回ってたって、覚えているのに。
美樹も真樹も飄々としているようで傷だらけだって、知っているのに。

赤の女王レースは、詰め込み世代には身に沁みます。
ネットの流行語を駆使し、主役の双子は17歳、
学園を舞台にした話もあり、例えがいちいち新しい新世代の小説のようで、
とうに学生時代を終えた読者こそが、共感できる物語になってます。

冊数を重ねるごとにどんどん常軌を逸していく美樹のお目付け役高槻刑事が、
なんというかもう取り返しのつかないことになってまして、おかしいやら悲しいやら。
……斧って。

本格ミステリで双子と言えば当然例のアレなわけですが、

高槻刑事は「死神美樹の」お目付け役であって、
美樹をほったらかして
真樹についてくるとかありえない。

デート中でも美樹に呼び出されると彼女置いて帰るような、
後悔も躊躇もしない「愛について考えない」真樹が、

「そのありえねー女運のなさに、魂の双子とまで思ったのに」
「裏切り者!」

とか言うわけないと5冊読んだ身としては思うわけで、

人物紹介に美樹と真樹の名前すらないのはそういうことかと。

「わかりきってるでしょ? だからあえてハッキリさせないよ」という作者の意図かと。
……思うんだけど、でもじゃあその理由はなんだろう?
その理由は次巻まで持ち越しなのでしょうか。
真樹が美樹ひとりに行かせるわけないと思うんだけどなあ…

でもそれがそもそも思い違いなんだろうか。

ということで思い出すのは
シリーズ一作目『パラダイス・クローズド』133~134頁。
そしてその後そのことを回想する高槻刑事の疑惑。241頁。

熊井が死んだあの夜、部屋の中で悪夢に怯えて泣いていたのは、
双子のどっちだったのだろう?
(中略)
あの晩、彼らの間には何があった?

湊警視正も私のような読者も、
立花家の双子に最初からだまされているのかもしれない。


行く先々で人が死に、不吉な死神と恐れられ、学校にも行けず引きこもる、
情緒不安のゴスロリ美少年、重度のアクアリストの兄、美樹。

肉親にも見放された美樹を守るために自分の青春を捨て、立場と外見と、
明晰な頭脳をフルに使って殺人事件を解き明かす、名探偵の弟、真樹。

美樹は不安定で病気で、真樹は明るくて冷徹。
美樹は一人では生きていけなくて、真樹はどこへ行っても大丈夫。
……本当にそうなのでしょうか。

本当にそうならどうして美樹は4作目『リッターあたりの致死率は』で、
「真樹を泣かせる」なんて理由で、あそこまで?

そんなわけで今後も目が離せない「THANATOS」シリーズ、
笑いあり涙あり萌えあり薀蓄山ほどありの、ひねくれた本格ミステリです。
ストックがこれで尽きたそうなので刊行ペースが遅くなるのかもしれませんが、
今後も付き合っていく所存でございます。

とりあえず読み終わって一番最初にしたことは、
ネットで例の画像を検索することでした…↓
検索して初めて知ったけれど、「青酸カリ」は改変でしたか。そりゃそうですよね(笑)。

konan.jpg

もちろんこの画像も改変ですけども(笑)。


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