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ジェラルディン・ブルックス『古書の来歴』

さて体調だの仕事だの言い訳にしつつブログが開店休業の間、
それでもこのダメ人間は本屋には行かないと死んじゃうんです。

脳内安西先生が「諦めたら試合終了だよ」と言うので、
発売から時間経っちゃったけど面白かったとか
いろいろ言いたいぜとかいう本を、
諦めずに遅ればせながら
書ける時にガンガンレビュー書いちゃうことにしました。

……本当にガンガン書いていけるといいなあ。すでに弱気


さて私は稀覯本をめぐる物語が大好きなのです。
そこにミステリ要素があれば言うことありません。
この世で一番素晴らしい男性は荒俣宏先生だと公言して憚らない。

何の予備知識もなかったけれど、だから書店で見かけて、
このタイトルに惹かれたわけですよ。

『古書の来歴』。

なんという地味な、でもなんと端正で胸躍るタイトル。
曰くつきの本にまつわる物語ですよこれは!
という匂いが真正面から来るじゃないですか。

そしてこの本、装丁がとても美しい。
もちろん、稀覯本は装丁が美しくなければね。いやこの本は普通に流通してるけど。

さてどんな本かな、とまず帯を読む。

100年ものあいだ行方が知れなかった
稀覯本「サラエボ・ハガター」が発見された――
連絡を受けた古書鑑定家のハンナは、
すぐさまサラエボに向かうが……

実在する稀覯本と、
その本を手にした人々の数奇な運命
ピューリッツァー賞作家が描く歴史ミステリ!


この帯の煽りを読んでもう胸がときめいてときめいて、
すぐさまレジに向かったわけですよ。

胸がときめきすぎてすっかり見落としていたわけですよ、
この美しいタイトル『古書の来歴』の原題が、

「People of the Book」

って書いてあることに。


このしょうもない原題に気づいていれば、
もしかしたら私はレジに行かなかったかもしれない……



さて何が言いたくて書き始めたかと言うとまず



100年行方知れずって大嘘じゃねーか帯! 
責任者出て来い!




サラエボ・ハガターが行方不明になったのは1992年だ、と
読み始めるといきなり作中にあります。どういうことでしょうか。
ちなみに作中時間はその時点で1996年。
100年の謎に酔おうと思っていた出鼻をいきなり挫かれます。気をつけろ!

あらすじを書いた人がどうしてそんな勘違いをしたのかわからないけれど、
件の稀覯本サラエボ・ハガターは
1894年にサラエボの博物館に売られた
のであり、
むしろその後100年間、第二次大戦の一時期以外
行方は博物館だとハッキリしていたのであり、
台無しです。


しかしこれは作者が意図した詐欺ではないし、
稀覯本をめぐる物語には違いないのだから、と
気を取り直して読み進めることにしましょう。


そもそも「サラエボ・ハガター」とは何ぞや。


ハガターとはユダヤ教の教えの書のひとつ。
「サラエボ・ハガター」が有名になったのは、
このハガターには細密画が多数挿入されていたから。

ユダヤ教は偶像崇拝を禁じているので、
挿画のあるハガターというのは世にも珍しい、歴史を変える本なのですね。
しかもこの本が作られたのはおそらく500年前



……大丈夫、オラ気を取り直してワクワクしてきたぞ。


主人公ハンナはオーストラリア人の古書保存修復家何故帯は鑑定家と書いたのか)。
母子家庭で育ち女医の母親に複雑な感情を抱いている。
ボスニア紛争で行方不明になったハガターが発見され、
その修復のために、政治的配慮から第三国のハンナがサラエボに行くことに。

ハンナは修復の過程で、このハガターの装丁が一度壊されていることに気づく。
何かの羽や白い毛、結晶、何かの染みを見つけ、それを科学的解析にかける。
そしてこの500年、このハガターがどれほど過酷な運命を乗り越えてきたかを知る――


――という筋書きですが、「知る」のは読者であってハンナには何もわかりません。
ハンナが何か手がかりを見つけるたびに
章が変わり、過去の時代の別の物語が挿入され、
その「手がかり」がどうしてそのハガターに付随したかを読者だけが知る、
という構成なんですが、


それはミステリか?


歴史ミステリと銘打つならば、
もうちょっと近代的な捜査によって判明するカタルシスがあってもいいのではないか?
この「過去の出来事」は
ただの時代背景に即した作者のファンタジーだ。
何の根拠もない。


と思うのですが、こちとら生粋の八百万の神の国の人間、
一神教をめぐる終わらない対立と差別の歴史は、
エキゾチックでスペクタクルな物語として興味深く読んでしまうのは否めない。
そういう意味では面白く読めますよ。



しかしちゃんと面白く読めるのに、
100年の謎とか歴史ミステリとか
なんで角の立つ煽り方をしたのかランダムハウス講談社
それはね、私みたいな人間を引っ掛けるためだよ! こんちくしょう!
第二のダン・ブラウン発掘とかそういう感じでやりたかったのだろうか?

とうわけでまったく帯の情報は信用できないわけですが、
その問題な帯に

キャサリン・ゼタ・ジョーンズが映画化権取得!

とあります。


まあメリケン人がやたらと映画化権を取得だけしたがるのは周知の事実ですが、
これはネタがユダヤ教なうえにものすごいフェミ臭のする作りなので、
向こうでスポンサーはカンタンに見つかりそうだから映画化しても驚かない。


何しろハンナは母子家庭、母は有能な女医、
もうお互いいい歳なんだから落ち着けばいいのに
まるで傷つきたがりのティーンエイジャーのように
お互い相手に傷ついたー傷ついたーと喚いていて見苦しい。
権利だ自由だと自分のことばかり叫び、相手のためにとは考えない。

この母子の関係を延々と読まされるんですが
古書修復の本筋とは関係なく、
しかも和解もしやがらないので大変読んでて気が滅入ります。

女性の自由ってそういうことなのか? 
私も女だけどうんざりしますよ。

出てくる現代の登場人物は全員ホワイトカラーで
男はイケメンインテリで全員ハンナをチヤホヤし、
それをハンナは付き合ったり振ったり、
……ハーレクインかこれは、作者のドリーム投影かハンナは、と
この点でも私はうんざり。

でも、好きそうでしょそういうの、ハリウッド。



読んでみようと思った方に、ちょっと老婆心ながら注意点。


読書のときに政治的問題を感情に反映させるのはやめよう、
ニュートラルに読もう、と思うのですが、
それでも私も思わず本を閉じたので、
きっと大多数の日本人は、以下のくだりに一瞬感情が沸騰すると思います。
40頁。改行は私。↓


「きみはオーストラリア人だそうだね」とオズレンは言った。
私はため息を押し殺した。
丸一日仕事に没頭したせいでまだ気持ちが高揚していて、
世間話をする気分ではなかった。

「あんなに若い国の人が、よその国の大昔の宝物の面倒を見るなんて、
なんだか妙な気がするよ」
私が答えないと、オズレンはさらに言った。

「そういう国で育ったから、かえって、文化的なものに飢えてるのかな?」

すでに無礼な態度を取っていたので、
今度はそうならないように努力することにした。
といっても、ほんのわずかな努力だが。

若い国だから文化がないという考えは前時代的なものだ。
オーストラリアには世界のどの国にもひけを取らないほど
古くから引き継がれてきた芸術がある。

オーストラリアの先住民アボリジニは、
ラスコーで人類が初めて絵筆を手にして何を描こうか思い悩むよりはるか以前、
つまり三万年ほどまえから、
住居である洞穴の壁に洗練された絵を描きつづけてきたのだ。




……なんで怒るのかわからない人はこのへんを熟読してきてください。




ただ最後まで読むと、
つまりハンナ――というか作者――が目指してるのは
あらゆる人種と宗教が交じり合い平和に共存する社会であるとわかり、
ハンナはアボリジニ芸術の保存の仕事をするようになります。
なりゆきですがね。この発言の時点でしてれば腹も立てなかったのに!

ただそう思って本を読み終えた後
「作者の来歴」で、息子の名前を見て
「ああ…そういうこと…」と思っちゃうんですけどね。
結局ね。


いずれにせよなんというか
全体的に左翼主義フェミ女性のファンタジー。

設定や展開や着眼点が素晴らしく、面白い試みだっただけに、
そういう部分が漂ってくる点だけは、私の好みには合わなくて残念。
でも、そういうのが好きな人もたくさんいると思うので、そういう方は是非。




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