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『ジャンピング・ジェニイ』文庫化――!

ミステリの秋万歳!

アントニイ・バークリー『ジャンピング・ジェニイ』が初文庫化です! 
まさか発表後70年以上経ってから初文庫化があるとは!
いつか歳をとって暇が出来たら
図書館で国書刊行会発行の『世界探偵小説全集』を
読み漁るつもりでいたのに…! ありがとう! ありがとう創元文庫!

『毒入りチョコレート事件』が新装化することは知ってましたが、
この件は書店ではじめて知って、平台の最後の一冊で、慌てて買いました。
……ええもちろん『毒入りチョコレート事件』の新装版も買いましたよ。
……ええもちろん旧版持ってますよ内容同じですよそれが何か。

バークリーが大好きです。
今まで読んだミステリの中で何が好きですかと問われれば、
順位をつけるのは不可能だけれども一番めか二番めには、
「毒入りチョコレート事件!」と名を挙げているはずです。
これは私の「個人的古典ミステリブーム」に火をつけた最初の本でした。
『試行錯誤』も『ピカデリーの殺人』もアイルズ名義の作品も好きだー!

ちなみにいつも『毒入りチョコレート事件』と争うのは『九マイルは遠すぎる』。
私の好みの傾向がよくわかる2冊(笑)。

でもこれから三番目か四番目には『ジャンピング・ジェニイ』も挙げるかな!
面白かったです。幸せです。創元文庫には珍しく訳もよかった! 

バークリーは皮肉の効いた文章の巧みさや会話の妙や、
そしてどこまでも論理的な推理展開の素晴らしさもさることながら、
なによりキャラクターがチャーミングでたまりません。

『ジャンピング・ジェニイ』は毒入りチョコレート事件でもお馴染みの、
ロジャー・シェリンガムが一応の「探偵役」として主役にいるのですが、
最低だこいつ(笑)。

舞台はシェリンガムの友人、ロナルド・ストラットンの館で開かれた
たいそう悪趣味な「殺人者とその被害者に扮装するパーティー」。

世間では名探偵ということになっている、そして自分でもそう信じている
コスプレひとつまともに出来ないロジャー・シェリンガム氏は、
そこでロナルドの弟ディヴィットの妻、イーナの奇矯なふるまいを目にします。

イーナという女性がとてもハタ迷惑で、皆を酷い目に遭わせていること、
誰もが彼女をもてあまし、そして彼女に追い詰められていることがわかります。

やがてイーナは首吊りの状態で発見されるのですが、
登場人物がすべて「死んでくれて清々した」とハッキリ考えているという状態。
我らがシェリンガム氏も含めて。

もしかしたら違うかもしれないけど自殺でいいよ! じゃあそういうことで!
暗黙の了解で誰も彼もがそういうふうに動きます。

しかしさすが我らがメイ探偵シェリンガム、現場をくまなく見たことで
「あ、これ殺人事件だ」とひらめいちゃうわけですが、
そこで彼はアッサリと証拠隠滅に動きます。
こらこらこらこら!!

ところがそのうっかり動いた証拠隠滅のために、
事態はどんどん悪い方向へ転がっていくはめに。
もうね、シェリンガムとコリン・ニコルスンの会話は笑い無しには読めません。
コリンを呼び出し、大威張りでこれが実は殺人事件だと開陳したメイ探偵、
あっさりコリンに推理をひっくり返され、それどころか。

「その解釈でいくと最有力容疑者は君自身では」

と指摘されてしまい、しかも反論できなくて、探偵も読者もびっくりです。
コリンがそのまま警察に言ったら一巻の終わりな勢いです(笑)。

このまま自殺として片付けるためには、警察より先に犯人を見つけて、
みんなで口裏合わせをしなくてはいけなくなったシェリンガム。
どんな探偵だそれ。
彼が大忙しで空回ってコリンに嘲笑されてる間に、
淡々と地道に警察は事件解明に動いていく対比が、
読んでいるこっちも焦るやらおかしいやら不謹慎だと自己嫌悪するやらで。

空回りっぱなしなシェリンガムに対して、冷静なツッコミ役コリンが萌えます。
もうふたりでコンビ組んじゃえよな勢いで可愛いです。


「(略)思い出せない。大事なことなのか」

「もちろんだ。ミセス・ストラットンの死を望む動機を持った人間すべての
足取りを押えておきたいんだ。あの女が舞踏室を出ていってから、
ディヴィットが戻ってきて、彼女が家にいないと言い出すまでのね」

「まったく難儀なことだな、そう簡単な仕事じゃないぞ。
わかった、なんとかやってみよう。
ちょっと待ってくれ、もう一度考えてみるから」

 ロジャーは、薔薇の木の根元を不法に調査していた一匹の
ハリガネムシを相手にあそびながら待った。

「じっとしてくれれば、考えることもできるんだがな」コリンは言った。

 ロジャーはじっとしていた。

「うん、思い出したよ(略)」





ロジャー可愛いよロジャー。
コリン思い出すの早いよ、遊んでるでしょう(笑)。
その後いろんな人を犯人として推理を展開させるもコリンにすべて反駁され、
僕を犯人扱いしたときは平然としてたのに!
拗ねる様子も可愛くてたまりません。

229頁の

「黙ってろよ、オズバード」

このコリンの一言で私この人に落ちました。コリンステキすぎる。


その後も誰が犯人だかわからない中、でも疑心暗鬼になるのではなく
「誰が犯人だか知らないけど誰が犯人でもとにかく庇わなければ」という
妙な連帯感で、偽証工作(言い回しがほかに思いつかない)を続けていく友人たち。

そしてバークリーですからもちろん、最後には予期していなかった
二転三転があって、「そうきたか!」と唸って終わります。
さすがですマエストロ、一筋縄では終わりません。


本物の知性というものは、どんなに時が経っても色あせないのだなあと思います。
『毒入りチョコレート事件』にも顕著な、
ある方向から見たら正しいように見える推理だって、
それは真実とは限らない。
一見筋道立ってるような推理なんて、
どこからでもいくらでも作れるんだから。
というバークリーの怜悧で明晰な、徹底した突き放した感が心地よいのです。

『ジャンピング・ジェニイ』が飛ぶように売れたら、
ほかの文庫化してないシェリンガムシリーズも
続々文庫化されたりとか…しないでしょうか…
読みたいな…! 読みたいです東京創元社!
よろしくお願いします!

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