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山口雅也『古城駅の奥の奥』

…一番最初にお断りしておくと山口雅也さんは好きな作家さんですよ。
新本格の枠に囚われない遊び心の満載な、変化球投手なのは最初から知ってます。
『ミステリーズ』大好きだし。

そして私は東京駅が大好きです。あの時代の建物マニアです。
山口雅也さんの、東京駅を舞台にした講談社ノベルズ。
私がどれだけわくわくしながら頁を開いたか。

……悩みました。
どこまでが変化球でどこからが反則なのかな、と。

どこまでが粋な遊び心でどこからが陳腐な児戯なのかな、と。

でも確かにノベルズのどこにも「本格ミステリ」とは書いてなかった。
そもそもが私の思い込みだった、だとしても。

いずれにせよ正直な感想はこれです。
……「浅い」。


引きこもりで活字中毒の居候の叔父に感化され、
「将来の夢」がテーマの作文に「吸血鬼になりたい」と書いたことで問題視され、
カウンセリングを受けることになった小学六年生の陽太

物語はここから始まりますが、
私が担任の教師なら、
「ふざけるな、真面目に書け」と再提出を申し付けて終わります。

最初からどうも世界に入っていけない。
読書家の小学校六年生ってこんなに幼稚だったかな。
空気の読めない夢見がちな子として読み進めればいいのかな、と思ってると
物語世界では
「その辺の大人より柔軟で知識欲旺盛、目端が利いて、賢い」
ということになってるから、どうにもちぐはぐで。

途中で「夏休みの課題」として選んだ「東京駅の詳細」のために
ステーションホテルに泊まり、叔父の友人の駅員に案内してもらうくだりは、
この本を持って東京駅を散策しよう! と思ったくらい魅力的でした。
でもそれは「東京駅の魅力」だ、と言われてしまえばそれまでですが。

でもなんとか出だしの引っ掛かりを押さえ込んで、
東京駅の歴史や謎めいた構造に胸をときめかせ、
人間関係が出揃って、
さあここで、事件発生ですよ。


ミステリマニアの叔父と甥が第一発見者の、
深夜の東京駅構内、
本来閉鎖されている通路内での殺人事件。

これで本格ミステリだと思い込んだほうが悪いというなら、
ちょっと酷いと思うんです。

……まあ悪い予感はしてたんだ。
正直ギャグマンガレベルのネーミングとかで。

ミステリマニアの小学生、陽太とそのガールフレンド留美花が、
あーだこーだと推理合戦を繰り広げるわけです。
とにかく小学生では情報を集める手段は限られてしまうから、
さあどうする、どうするこどもたち!? 
と読み進めると――






「魔法陣を描いて吸血鬼を呼び出そう」






……ええええええええええええええええ。

声出しました。本当に「えええええ!?」って言った私。

いやまさかね、どうせ呼び出したりは出来ない、何かの前フリだ、
それにしては残り頁少ないけどな、と思ってたら


召喚できるとか。
なんだそれ。
えええええええええええええええ。

あとはもう怒涛の台詞、台詞、台詞。
全部言葉で説明して終わり。
なんだこれ。
本格ミステリじゃないのはわかった。
でもホラーでもないよね。
サスペンスでもなかったよね。何も怖くないし。
子供たちのための冒険譚でもないよね、
子供たち結局事件解決に寄与してないし。
何の本なんですかこれ。
それが感想。

「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」というお題目でお馴染みの、
「講談社ミステリーランド」シリーズ用に書いたものを
加筆・改稿したものだそうですが、
私はミステリーランド版の方は未読です。

でも「ミステリーランド」で読んでても「えええええ」と言ったと思います。
子供向けならいいとかいうレベルの問題じゃないと思うのです。

ミステリーランドといえば
第一回配本だった小野不由美さんの『くらのかみ』
やはり子どもたちを主役にした、
オカルト……というと語弊があるな、
「座敷童子」と「謎解き」を融合させたミステリで、
こちらは「変化球ストライク」でした。

それを思い出して、「変化球」と「反則」の境界って何かなあ、と考えてます。

『くらのかみ』が良く出来てるのは、
座敷童子が見えてるのは子供たちだけで、
ゆえに「大人を差し置いて子供が真相にたどりつく」ことが必然になっている点。
「真相以外の推理」については丁寧にダメ出しが説明されていて、
謎解きがきちんと着地している。
子供が主役であるための理屈付けとしての「座敷童子」。

『古城駅の奥の奥』は、推理をしてるのが「情報の乏しい子供」。
だから読んでいる方としては、情報量が少なすぎて
「いやこれ、現場の状況とかアリバイとかもっと調べてきちんと潰していけば、
犯人とトリックがわかるんじゃないか」という希望をまだ残しているのに、
他の可能性の潰し方がまだまだ甘いのに、
いきなり超現実があらわれて台詞だけで「これが真相でーす」と言って終わり。
主役が子供である必要性が皆無。

いっそ最初から叔父さん主役にして彼が恋に落ちたところから物語を始めて、
「登場人物の中の誰が吸血鬼だ?」という謎解きにするならわかる。
そういう展開の方が自然に読めたと思うんです。

そして「警察を納得させるための一応のトリックと犯人」が用意されていて、
それだけでミステリとしては成立するけれど、実は真相は吸血鬼の…という
二重底だったらよかったのに、と思うんです。

子供が主役、であるからには、読み手としては
「物語の終盤で何かを獲得していて欲しい」と期待するもの。
成長物語であって欲しい、と。
謎解きに寄与しない傍観者としての主役ならばなおのこと。
でも陽太は最初から何も変わらない。
最初から吸血鬼を信じているし、最初から大人を適当にだましている。

なんとか子供が主役である物語らしさを出そうとしてか、
ラストに手垢のついた常套句が書かれているのですが、
それがまた


大人たちは、存在しないはずの冬のコウモリが存在することを知らない。
同様に、実在しないはずの途方もないものが実在しているという事実も
知ろうとはしないのだ――




……なんという悪文。


いいのかなこれ。いいんですか講談社。
ミステリーランドではどうだったんでしょう、
私は子供には美しい日本語を読んで欲しいのですが。

一応繰り返しておきますが山口雅也さんは好きだったんですよ。
多分東京駅の魅力を伝えたかったんでしょう、
ええそれは伝わりましたとも、充分に。
子供向け、というお題目に自縄自縛になって
何をどうしたらいいのか本人がわからなくなっちゃったのかな、
そんな印象を受けました。

でも作中にご自分で書いてるじゃないですか。
留美花や陽太は大人向けのブラウン神父やクイーンを、
わくわくしながら楽しんで読んでいるじゃないですか。

それでよかったんじゃないですか。
……そう思うんですが。


とりあえず新幹線プラットホーム3、4番線南側の柱は、
今度じっくり見て来るつもりです。


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