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『ジャンピング・ジェニイ』文庫化――!

ミステリの秋万歳!

アントニイ・バークリー『ジャンピング・ジェニイ』が初文庫化です! 
まさか発表後70年以上経ってから初文庫化があるとは!
いつか歳をとって暇が出来たら
図書館で国書刊行会発行の『世界探偵小説全集』を
読み漁るつもりでいたのに…! ありがとう! ありがとう創元文庫!

『毒入りチョコレート事件』が新装化することは知ってましたが、
この件は書店ではじめて知って、平台の最後の一冊で、慌てて買いました。
……ええもちろん『毒入りチョコレート事件』の新装版も買いましたよ。
……ええもちろん旧版持ってますよ内容同じですよそれが何か。

バークリーが大好きです。
今まで読んだミステリの中で何が好きですかと問われれば、
順位をつけるのは不可能だけれども一番めか二番めには、
「毒入りチョコレート事件!」と名を挙げているはずです。
これは私の「個人的古典ミステリブーム」に火をつけた最初の本でした。
『試行錯誤』も『ピカデリーの殺人』もアイルズ名義の作品も好きだー!

ちなみにいつも『毒入りチョコレート事件』と争うのは『九マイルは遠すぎる』。
私の好みの傾向がよくわかる2冊(笑)。

でもこれから三番目か四番目には『ジャンピング・ジェニイ』も挙げるかな!
面白かったです。幸せです。創元文庫には珍しく訳もよかった! 

バークリーは皮肉の効いた文章の巧みさや会話の妙や、
そしてどこまでも論理的な推理展開の素晴らしさもさることながら、
なによりキャラクターがチャーミングでたまりません。

『ジャンピング・ジェニイ』は毒入りチョコレート事件でもお馴染みの、
ロジャー・シェリンガムが一応の「探偵役」として主役にいるのですが、
最低だこいつ(笑)。

舞台はシェリンガムの友人、ロナルド・ストラットンの館で開かれた
たいそう悪趣味な「殺人者とその被害者に扮装するパーティー」。

世間では名探偵ということになっている、そして自分でもそう信じている
コスプレひとつまともに出来ないロジャー・シェリンガム氏は、
そこでロナルドの弟ディヴィットの妻、イーナの奇矯なふるまいを目にします。

イーナという女性がとてもハタ迷惑で、皆を酷い目に遭わせていること、
誰もが彼女をもてあまし、そして彼女に追い詰められていることがわかります。

やがてイーナは首吊りの状態で発見されるのですが、
登場人物がすべて「死んでくれて清々した」とハッキリ考えているという状態。
我らがシェリンガム氏も含めて。

もしかしたら違うかもしれないけど自殺でいいよ! じゃあそういうことで!
暗黙の了解で誰も彼もがそういうふうに動きます。

しかしさすが我らがメイ探偵シェリンガム、現場をくまなく見たことで
「あ、これ殺人事件だ」とひらめいちゃうわけですが、
そこで彼はアッサリと証拠隠滅に動きます。
こらこらこらこら!!

ところがそのうっかり動いた証拠隠滅のために、
事態はどんどん悪い方向へ転がっていくはめに。
もうね、シェリンガムとコリン・ニコルスンの会話は笑い無しには読めません。
コリンを呼び出し、大威張りでこれが実は殺人事件だと開陳したメイ探偵、
あっさりコリンに推理をひっくり返され、それどころか。

「その解釈でいくと最有力容疑者は君自身では」

と指摘されてしまい、しかも反論できなくて、探偵も読者もびっくりです。
コリンがそのまま警察に言ったら一巻の終わりな勢いです(笑)。

このまま自殺として片付けるためには、警察より先に犯人を見つけて、
みんなで口裏合わせをしなくてはいけなくなったシェリンガム。
どんな探偵だそれ。
彼が大忙しで空回ってコリンに嘲笑されてる間に、
淡々と地道に警察は事件解明に動いていく対比が、
読んでいるこっちも焦るやらおかしいやら不謹慎だと自己嫌悪するやらで。

空回りっぱなしなシェリンガムに対して、冷静なツッコミ役コリンが萌えます。
もうふたりでコンビ組んじゃえよな勢いで可愛いです。


「(略)思い出せない。大事なことなのか」

「もちろんだ。ミセス・ストラットンの死を望む動機を持った人間すべての
足取りを押えておきたいんだ。あの女が舞踏室を出ていってから、
ディヴィットが戻ってきて、彼女が家にいないと言い出すまでのね」

「まったく難儀なことだな、そう簡単な仕事じゃないぞ。
わかった、なんとかやってみよう。
ちょっと待ってくれ、もう一度考えてみるから」

 ロジャーは、薔薇の木の根元を不法に調査していた一匹の
ハリガネムシを相手にあそびながら待った。

「じっとしてくれれば、考えることもできるんだがな」コリンは言った。

 ロジャーはじっとしていた。

「うん、思い出したよ(略)」





ロジャー可愛いよロジャー。
コリン思い出すの早いよ、遊んでるでしょう(笑)。
その後いろんな人を犯人として推理を展開させるもコリンにすべて反駁され、
僕を犯人扱いしたときは平然としてたのに!
拗ねる様子も可愛くてたまりません。

229頁の

「黙ってろよ、オズバード」

このコリンの一言で私この人に落ちました。コリンステキすぎる。


その後も誰が犯人だかわからない中、でも疑心暗鬼になるのではなく
「誰が犯人だか知らないけど誰が犯人でもとにかく庇わなければ」という
妙な連帯感で、偽証工作(言い回しがほかに思いつかない)を続けていく友人たち。

そしてバークリーですからもちろん、最後には予期していなかった
二転三転があって、「そうきたか!」と唸って終わります。
さすがですマエストロ、一筋縄では終わりません。


本物の知性というものは、どんなに時が経っても色あせないのだなあと思います。
『毒入りチョコレート事件』にも顕著な、
ある方向から見たら正しいように見える推理だって、
それは真実とは限らない。
一見筋道立ってるような推理なんて、
どこからでもいくらでも作れるんだから。
というバークリーの怜悧で明晰な、徹底した突き放した感が心地よいのです。

『ジャンピング・ジェニイ』が飛ぶように売れたら、
ほかの文庫化してないシェリンガムシリーズも
続々文庫化されたりとか…しないでしょうか…
読みたいな…! 読みたいです東京創元社!
よろしくお願いします!

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Gファンタジー12月号感想文。

毎月の恒例にしちゃうと首を絞めると思いつつ。
例によってネタバレ上等なので単行本派は「続きを読む?」を
押さないように一つお願いします、っていうか

……隠の王休載とか聞いてないよ!
このへんとかものすごくかっこ悪いよ私!



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再読『ラブロマ』!

年末は身動きが取れないのがわかっているので、
今頃から来月上旬までの間に大掃除だとかいろいろやろうと毎年思うのですが、
毎年その最中に久しぶりに手に取ったマンガを読みふけってしまう、そんな季節です。

というわけで今回久々に読み返して「最高じゃー!」と改めて叫んだのは
とよ田みのる『ラブロマ』全5巻

なんという直球なタイトル。
そして中身も、豪速球で直球ストライクなラブコメです。

4巻の帯が内容紹介書き下ろしマンガだったので載せてみる↓

raburoma.jpg

1→2
3→4 の順になってます。帯なので本当は一列でしたが。


星野くんは理想の彼氏だと思います。とてつもなくステキです。
そして根岸さんは理想の男前だと思います。理想の彼……いや違う。

開けっぴろげで絶対に嘘をつかず思ったことを全部口に出す、
きちんと延々と話し合いお互いを理解し受け入れようと努める、
誠実で真面目で心底から善良な二人の、大爆笑コメディでございます。
「正直である」ということはスペクタクルだね☆

一巻ではいきなり星野くんが
全クラスメイトの前で根岸さんに告白するシーンから。
星野くんは何も隠しません。全部言います。全部本心です。
彼には駆け引きという概念はありません。常に直球です。

それにいちいちツッコミを入れながら、でも誠実に応える根岸さんは、
本当に男前……女の子ですよちゃんと、でも男前です。

ボケばっかりのキャラクターの中で
全部律儀にいちいちツッコむ根岸さんがいとおしい(笑)。

ハタから見るととてつもなくバカバカしいような会話を、
本人たちはでも大真面目に、真剣に、語り合う。
突き詰めて言えば全編そればかりですが、
前のエントリーでも書いたように、
駆け引きとか見栄とか自己保身とか考えずに、
常に誠実でやさしくあろうとする人の「普通の日常」は、
私の「泣きポイント」なのです。
『ラブロマ』は全編、全部通して、「そんな日常」です。

告白を受け入れるか入れないか。
受け入れたら付き合い方をどうするか。
デートはどんなふうにするのか。
キスはどうしたらいいのか。
家族に紹介するときは。
横からライバルが現れたとき。
試験勉強、受験勉強、将来の夢。
関係をもうちょっと先に進めたいけど、怖い。

高校生カップルのそういう当たり前の悩みを、
直球で「話し合い」でクリアしていく超健全な真面目なふたり。

raburoma2.jpg

この空気を読まないミもフタもない発言が星野くんの素晴らしさ(笑)。
それをツッコみつつ受け入れて真面目に応える根岸さんは素晴らしい人です。

ラブロマが好きすぎて連載中はアフタヌーンを買っていましたよ。
テレビでこういうドラマを流せば
この地上波をろくに見ない私(ケーブルは見る)も
毎週楽しんで見るだろうな、と当時よく考えたものです。
映像化の話が当時あったようなんですが、なんで実現しなかったのかな…
今からはもう期待できないんだろうな…

もう全5冊全部好きですが、特別に挙げるなら
4巻のマラソン話「走れホシノ」と最終話。
5巻174頁は今日読み返したとき、再読なのにうるっときました。
……いいなあ、根岸さんには星野くんがいて。
いいなあ、星野くんには根岸さんがいて。

真面目で地味で一生懸命で、他人に優しくあろうとして、日々悩んで頑張って、
友達を大切にして家族と仲良くして、大好きな人を思いやる、
そんな人たちの普通の日常。

社会にもまれて人間関係に疲れたときによく効きます。

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山口芳宏『妖精島の殺人』

秋はミステリの季節です。
年末の「このミス」に合わせる為に
刊行ラッシュがあるからだとかいう世知辛い事情は抜きにして。
どんだけ講談社ノベルズ好きなんだという感じで続いてますが。
季節なので仕方がないのです。

というわけで鮎川哲也賞受賞の作家が、講談社ノベルズに初登場。
いきなりの2ヶ月連続上下2冊刊行で、いきなりのシリーズ化決定で、
いきなりのシリーズ次回作発売時期予告付きで、
出版社側の意気込みが伝わってきます。

さぞかし面白いんだろうなと読者側が心配になるほど
ページを開く前からハードルがガン上げですよ。

……えてしてこういう場合、
読者側は非現実的なレベルまで期待値を上げてしまうので、
絶対的評価としては高いレベルでも、
自分の中の期待値の高さから相対評価して、
「それほどでもなかった」と言ってしまいがち。
比較対象が存在しない漠然とした理想」なんだから
勝てるわけがないというのに。

だからというかなんというか、
上巻第一章が………………辛かった。

正直ぶっちゃけるともう、
なんで一緒に下巻買っちゃったんだろう!
買う前に立ち読みしろよ自分!
と考えたくらい、しんどかったです。

いやもう、言いたいことはいっぱいあった。
ひとつひとつ指摘したくてしょうがなかった。
しかし。
しかしです。

第二章が始まってからはそんなことも忘れました。
読むスピードが急激に上がった。
大丈夫。この本面白いです(笑)。

どういうことかと申しますと、
第一章は大資産家がまるごと買い付けた孤島へ、
派遣社員の柳沢という男性がある理由で上陸を試み、
そこで不思議な世界を見て、酷い目に遭う、という事件が描かれていて、

第二章では柳沢からその一部始終を聞いた主人公たちが動き出す、わけです。
第一章だけ語り部が違うという仕組み。
そしてこの柳沢という人がどうにもこうにも……

「もしかしたら全部柳沢の妄想で、
そんな世界は実在しないのではないか?」

という疑問の余地を残す物語上の必要があるので、

現実と妄想の区別がつかなくなる可能性のありそうな人間

という性格設定。
ひとりで何もかもしなければならない物語上の必要があるので(笑)、
コミュ力の低い、社会的に重要でない人間、という設定。

妖精の扮装をしても似合ってしまうほどの絶世の美女と、
命を懸けてもいいほどの恋に落ちる、という「物語上の必要」と、
柳沢の「物語上必要な設定」が、噛みあっていないんです。いないんですよ!

作者自身もそこは弱いと思っているらしく、
2章で必要以上に、
「絶世の美女ともなると意外とそうそう男は寄ってこなくて」とか、
「金で買える女ばかりじゃなく、誠実な男を求めてる女は多い」とか
「自分で言うより柳沢の容姿は良い」とかフォローに回ってますが……

容姿や美女側やお金の問題でなく、
もうすこし柳沢氏本人を魅力的に描けないものかと…
どうにも真希との恋が巧く描けていなくて、
読んでいて辛い。全然入っていけない。

でもその苦行を抜けるとあとはスラスラ読めます。
スラスラ読めるということは破綻がないということであり、
即ち「新本格のテンプレ通り」ということであり、
……悪く言えば、特に目新しい個性的なものは、ないのですが。

しかし本格ミステリに「破綻がない」は褒め言葉。
読者に対してフェアに美しく、真摯な姿勢で臨むあまりに、
下巻のはじめあたりで犯人もトリックも
正直ミステリ読み慣れた人間にはバレバレなんだが、そこはそれ!

予測どおりの真相がじわじわ明らかになるものの、
読者を退屈させないようにいろいろ趣向を凝らしているし、
やっぱり綺麗に着地しているミステリは読み終わってすがすがしいです。

シリーズ化が決定しているということで、最初は顔見世興行ですから、
ある程度「わかりやすい」ものが来るのは仕方ないのかも。
……でもまあ、次回作は、せめて探偵が到着してから
読者が謎を解けるくらいの叙述で……

今回はやはり物語の長さと規模に対して、
登場人物が少な過ぎたのがバレバレの原因だと思う…
主犯ははっきり言ってもうほぼ上巻で正体まで見当つくし…

ミスリードのためだけに登場人物を増やすのは
どうやら作者の美学に反するみたいなんですが、
だったらせめて菜緒子も真野原も意外と信用できないとか、
例のアレ宜しく「私」ですら読者には怪しく見えるとか、
「探偵側」まで容疑者に巻き込んじゃえば良かったんですよ、
それが通用するのは第一作目だけなんだし。

上下2冊の長さに対してどうも読み応えがないなと思うのも、
後半部分はこちらの推理が正しかったことが立証されていくだけ、
あとは動機の面の補強がされていくだけだったので、
正味1冊分くらいしか「読んだ」感がないせいかなあとも思うし、

講談社ノベルズのくせに薀蓄が足りないぞ! 
というせいかも知れません。

「妖精」をテーマにしたからには
ケルトの伝承から数ページに渡って語らないと!
それでこそ講談社ミステリというものでしょう!
足りないんですよ「コティングリーの妖精写真」とドイルの関係なんて、
ミステリ好きには常識の範囲内だから。
異論は認める。

実際島を丸ごと買い取って「妖精」をテーマにした一大パノラマを作るという割に、
その執念めいたものが伝わってこないのは、
薀蓄の足りなさと、描写の曖昧さにあると思います。
第一章じゃ最重要な「城の外観」が全然伝わってこない。
どうでもいい裸の描写は執拗にあるくせに。

町は「地中海風の白い壁」くらいしか描かれていないし、
島民の服装描写も「ヨーロッパの農民風」って、漠然としすぎ。
「ヨーロッパ風」で描いた気にならないで欲しいなあ、と。

いつの時代のどこらへんの地方まで「私」が説明できないなら、
せめて読者が思い描けるくらいにディティールを描くべきでは。
城の内部描写もどうも通俗的というか、有体に言うと「貧乏くさい」し。

異世界の妙を表現するそういう描写が適当なのに、
裸だの女だのだけしつこく乳首の色まで描写するから、
「幻想的な妖精世界」でなくて
「それを模した風俗店」にしか見えないのですよ、残念なことに。

まあ大乱歩の『パノラマ島』とまではいかなくても、
タイトルを見て、耽美で幻想的で外連(けれん)味のある作品かな、という
「漠然とした私の理想」と相対しての評価だからこう思うのであって、
そういう思い込みがはじめになければ、「よくできたミステリ」だと思います。
……私も本格ミステリに毒された、「嫌な読者」になってるんだと思います。

シリーズ2作目は来年発行『学園島の殺人』だそうです。
……島シリーズなの?
貧乏なのに? 

交通費の工面が大変そうだ。
 

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山口雅也『古城駅の奥の奥』

…一番最初にお断りしておくと山口雅也さんは好きな作家さんですよ。
新本格の枠に囚われない遊び心の満載な、変化球投手なのは最初から知ってます。
『ミステリーズ』大好きだし。

そして私は東京駅が大好きです。あの時代の建物マニアです。
山口雅也さんの、東京駅を舞台にした講談社ノベルズ。
私がどれだけわくわくしながら頁を開いたか。

……悩みました。
どこまでが変化球でどこからが反則なのかな、と。

どこまでが粋な遊び心でどこからが陳腐な児戯なのかな、と。

でも確かにノベルズのどこにも「本格ミステリ」とは書いてなかった。
そもそもが私の思い込みだった、だとしても。

いずれにせよ正直な感想はこれです。
……「浅い」。


引きこもりで活字中毒の居候の叔父に感化され、
「将来の夢」がテーマの作文に「吸血鬼になりたい」と書いたことで問題視され、
カウンセリングを受けることになった小学六年生の陽太

物語はここから始まりますが、
私が担任の教師なら、
「ふざけるな、真面目に書け」と再提出を申し付けて終わります。

最初からどうも世界に入っていけない。
読書家の小学校六年生ってこんなに幼稚だったかな。
空気の読めない夢見がちな子として読み進めればいいのかな、と思ってると
物語世界では
「その辺の大人より柔軟で知識欲旺盛、目端が利いて、賢い」
ということになってるから、どうにもちぐはぐで。

途中で「夏休みの課題」として選んだ「東京駅の詳細」のために
ステーションホテルに泊まり、叔父の友人の駅員に案内してもらうくだりは、
この本を持って東京駅を散策しよう! と思ったくらい魅力的でした。
でもそれは「東京駅の魅力」だ、と言われてしまえばそれまでですが。

でもなんとか出だしの引っ掛かりを押さえ込んで、
東京駅の歴史や謎めいた構造に胸をときめかせ、
人間関係が出揃って、
さあここで、事件発生ですよ。


ミステリマニアの叔父と甥が第一発見者の、
深夜の東京駅構内、
本来閉鎖されている通路内での殺人事件。

これで本格ミステリだと思い込んだほうが悪いというなら、
ちょっと酷いと思うんです。

……まあ悪い予感はしてたんだ。
正直ギャグマンガレベルのネーミングとかで。

ミステリマニアの小学生、陽太とそのガールフレンド留美花が、
あーだこーだと推理合戦を繰り広げるわけです。
とにかく小学生では情報を集める手段は限られてしまうから、
さあどうする、どうするこどもたち!? 
と読み進めると――






「魔法陣を描いて吸血鬼を呼び出そう」






……ええええええええええええええええ。

声出しました。本当に「えええええ!?」って言った私。

いやまさかね、どうせ呼び出したりは出来ない、何かの前フリだ、
それにしては残り頁少ないけどな、と思ってたら


召喚できるとか。
なんだそれ。
えええええええええええええええ。

あとはもう怒涛の台詞、台詞、台詞。
全部言葉で説明して終わり。
なんだこれ。
本格ミステリじゃないのはわかった。
でもホラーでもないよね。
サスペンスでもなかったよね。何も怖くないし。
子供たちのための冒険譚でもないよね、
子供たち結局事件解決に寄与してないし。
何の本なんですかこれ。
それが感想。

「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」というお題目でお馴染みの、
「講談社ミステリーランド」シリーズ用に書いたものを
加筆・改稿したものだそうですが、
私はミステリーランド版の方は未読です。

でも「ミステリーランド」で読んでても「えええええ」と言ったと思います。
子供向けならいいとかいうレベルの問題じゃないと思うのです。

ミステリーランドといえば
第一回配本だった小野不由美さんの『くらのかみ』
やはり子どもたちを主役にした、
オカルト……というと語弊があるな、
「座敷童子」と「謎解き」を融合させたミステリで、
こちらは「変化球ストライク」でした。

それを思い出して、「変化球」と「反則」の境界って何かなあ、と考えてます。

『くらのかみ』が良く出来てるのは、
座敷童子が見えてるのは子供たちだけで、
ゆえに「大人を差し置いて子供が真相にたどりつく」ことが必然になっている点。
「真相以外の推理」については丁寧にダメ出しが説明されていて、
謎解きがきちんと着地している。
子供が主役であるための理屈付けとしての「座敷童子」。

『古城駅の奥の奥』は、推理をしてるのが「情報の乏しい子供」。
だから読んでいる方としては、情報量が少なすぎて
「いやこれ、現場の状況とかアリバイとかもっと調べてきちんと潰していけば、
犯人とトリックがわかるんじゃないか」という希望をまだ残しているのに、
他の可能性の潰し方がまだまだ甘いのに、
いきなり超現実があらわれて台詞だけで「これが真相でーす」と言って終わり。
主役が子供である必要性が皆無。

いっそ最初から叔父さん主役にして彼が恋に落ちたところから物語を始めて、
「登場人物の中の誰が吸血鬼だ?」という謎解きにするならわかる。
そういう展開の方が自然に読めたと思うんです。

そして「警察を納得させるための一応のトリックと犯人」が用意されていて、
それだけでミステリとしては成立するけれど、実は真相は吸血鬼の…という
二重底だったらよかったのに、と思うんです。

子供が主役、であるからには、読み手としては
「物語の終盤で何かを獲得していて欲しい」と期待するもの。
成長物語であって欲しい、と。
謎解きに寄与しない傍観者としての主役ならばなおのこと。
でも陽太は最初から何も変わらない。
最初から吸血鬼を信じているし、最初から大人を適当にだましている。

なんとか子供が主役である物語らしさを出そうとしてか、
ラストに手垢のついた常套句が書かれているのですが、
それがまた


大人たちは、存在しないはずの冬のコウモリが存在することを知らない。
同様に、実在しないはずの途方もないものが実在しているという事実も
知ろうとはしないのだ――




……なんという悪文。


いいのかなこれ。いいんですか講談社。
ミステリーランドではどうだったんでしょう、
私は子供には美しい日本語を読んで欲しいのですが。

一応繰り返しておきますが山口雅也さんは好きだったんですよ。
多分東京駅の魅力を伝えたかったんでしょう、
ええそれは伝わりましたとも、充分に。
子供向け、というお題目に自縄自縛になって
何をどうしたらいいのか本人がわからなくなっちゃったのかな、
そんな印象を受けました。

でも作中にご自分で書いてるじゃないですか。
留美花や陽太は大人向けのブラウン神父やクイーンを、
わくわくしながら楽しんで読んでいるじゃないですか。

それでよかったんじゃないですか。
……そう思うんですが。


とりあえず新幹線プラットホーム3、4番線南側の柱は、
今度じっくり見て来るつもりです。


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池田理代子『おにいさまへ…』

なんだ突然!? と思われるでしょうが、一応このへんで匂わせときました。
読み返した古いマンガについてもじわじわ触れていきたいと思います。
……古いマンガは面白いんですもん。
私が死ぬ前にキャンディ・キャンディを読み返させてください両先生……

そんなわけでようやく倉庫から引っ張り出してきて読み返した『おにいさまへ…』
私が持っているのは中央公論社の愛蔵版なんで、
ムチャクチャ分厚くて(総898頁)重いんですが、読んでいるうちに重さを忘れます。

そして読み返すたびに
これ『おにいさまへ…』ってタイトルが損してるんじゃ、
と余計な事を考えます。
ビッグネームだからまんがばかは皆内容知ってるでしょうが、
もしご存じない方が「兄と妹の愛憎劇」という勘違いをしていたら、

全然違うから! 男キャラなんて飾りですから!

と声を大にして言いたい。

内容的には「おねえさまへ…」の方が実情に沿っている。
そういうマンガです。

週刊マーガレットで連載が始まったのは1974年
しかし改めて読み返してみて、人物造形のバリエーションに驚きます。
今になってみれば「こ、これは理想的なツンデレ!」とか
「見事なヤンデレ!」とか思いますし、
ごきげんようおねえさまな名門女子高の百合だし、
池田理代子先生は時代を先取りしてますね!

SA380041.jpg

薫の君に対して典型的なツンデレを見せるマリ子。これはツン。

SA380040.jpg

これがデレ。
バスケの試合中に倒れた薫の君の様子を、
サン・ジュスト様の制止を振り切って見にきて唐突に泣き出す。

このマリ子は子供の頃読んだときにさっぱり理解できなくて印象が薄かったのですが、
今読むとなんでこんな個性の凄い子が視界に入らなかったのか謎です。

「女子高でモテるサバサバした男っぽい憧れのおねえさま」である折原薫、
通称「薫の君」に対しては、
今で言うところの典型的なツンデレである「上級生の子ネコちゃん信夫マリ子。
マリ子はしかし主人公御苑生奈々子(みそのお ななこ)に対しては、
典型的なヤンデレを見せます。

SA380037.jpg

帰ったら殺してやる…!

奈々子もまさか誕生会に呼ばれて、監禁されるとは夢にも思わなかったでしょう。


キャラの立ちまくった脇に囲まれて印象の薄い、がんばりやさんな主役奈々子が、
入学した名門女子高で経験し目撃する濃い愛憎劇を、
「おにいさま」である辺見武彦氏にあてて手紙で伝える、という体裁の物語ですが、
先にも述べましたがこの「おにいさま」にかかわる展開は、
正直どうでもいい。

これはサン・ジュストさまと蕗子さまの
ラブストーリーですから!

何度読み返しても身悶えします。なんだろうこのまったく色あせない感じ。
ふたりの視線が合うだけでときめくね!

SA380043.jpg

いつもは飄々として無感情に見える
「氷の美貌、死の大天使サン・ジュスト」こと朝霞れいは、
「われらの宮さま」一の宮蕗子がかかわると理性を失います。
この必死さがたまりません。

奈々子の耳に蕗子さまがキスしたのを目撃して、

「どっちの耳…!? 蕗子さまの唇がふれたのは…どっち…!?
どっちなの!? 右!? 右なの!?」

と怒鳴って奈々子の右耳に無理やりキスするシーンはもう、
知ってるのに胸が締め付けられますね。二重の意味で。
サン・ジュストさまの蕗子さまへの切ない片想いと、
サン・ジュストさまに恋する奈々子の哀れさと。

SA380044.jpg

サン・ジュストさまも奈々子もかわいそうだ。


だが「蕗子さまに片思いされ」「奈々子におにいさまと慕われ」「薫の君の運命の恋人」である、
それ何てギャルゲ? な女子高生ハーレムなはずの大学院生辺見武彦氏の、
存在感のなさこそが本当にかわいそうなのかもしれない。


さてこの『おにいさまへ…』はずいぶん以前にNHKでアニメ化されたのですが、
私はそのアニメを全話見れなかったのですよ。
再放送しないかなあとずっと待っていたのですが、
内容が過激なため再放送を自粛しているという……か、過激?

NHKで流せないならケーブルに権利を売ってくれ!
流してくれアニマックス! と切に願っております。

DVD探そうかな……


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サイトTOP変更完了。

予定より少し遅れましたがサイトの更新が終わりましたよ。
雷光さんの無事が今月号で確認できますように!



以下隠の王には何の関係もない愚痴。

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汀こるもの『赤の女王の名の下に』

THANATOS(タナトス)シリーズ最新作です。

メフィスト賞を受賞した「パラダイス・クローズド」から続けて5冊目。
刊行ペースが早いなあと思ってたら、
この5冊目までメフィスト賞に応募していたらしく。
森博嗣先生といい、メフィスト賞ってのはシリーズものをまとめて書いて
まとめて応募する賞なのでしょうか。そういうものなのか。担当付ってことなのかな。謎。

メフィスト賞に応募していたと言われれば成程というか、
ちょこちょこファウストの引用が入ってきます。
前作までは美樹の人物紹介には「死神(タナトス)」と入っていても、
真樹は普通だったのに、普通だったのに。

とうとう人物紹介に名前まで省かれて



「メフィストフェレス

死神」



としか書かれなくなってしまったシリーズ主役の立花家の双子。

しょっぱなからびっくりですよ。真樹悪魔扱いですか。
死神扱いされる情緒不安な兄の唯一の味方、兄を守る高校生探偵だったのに。
謎は解くけど犯人は捕まえない捻くれた名探偵、
そういう役どころだったはずなのに。

死神と悪魔って。変わらないでしょそれ、世間一般の扱い的に。

しかしその粗雑な扱いも然り、今回はまさかの湊警視正視点でございます。

前作でキレた真樹の暴挙のせいで、立場がまずくなったことはわかっていましたが。
いやまさか主役を張ってくるとは!

これまでは、やたらと欧米文学を原文で引用したがる気障で冗談下手な警察官僚、
自分は安全な場所にいて部下に汚れ仕事を押し付ける典型的なお役人、という
イメージくらいしかなかった湊警視正、よもやこんな面白い人だったとは…!

もう最初から、湊さんが口を開くたび笑いを堪えるのが大変で。
折り返しの作者コメントに、「貴方の中にも湊のかけらはあるのかも」とありますが、
いや本当に、講談社ノベルズを読んでるような読者はその殆どが、

「あるあるあるあるある」

と自嘲とともに呟いていると思います。

最近多いネット掲示板への犯罪予告書き込みでの逮捕で、
容疑者の部屋の大量の本から「悪書が精神に及ぼす影響を調べる」という
最初に結論が用意されているマスコミの大好きなくだらない分析をやるハメになり、
湊警視正はこうのたまいます。

「見ろ、夢野久作が入っている。
私以外の者がやったらどうなる?
衆愚に『ドグラ・マグラ』を検閲されてたまるか!」

この一言で私はこの人を大好きになりますよ。もう充分だ。

いやあもうこんなにいろいろ魅力のある人を5冊目まで温存していたとは。
高校時代の思い出話から最後の頁に至るまで、湊さんには笑わされっぱなしだ!
そして古傷やら弱点やら突かれっぱなしだ! 泣くぞこんちくしょう!
……ちょっと泣けますよ。

思春期の万能感を失った人間は、17歳がまぶしいね。
あの頃は苦しんで傷ついてのた打ち回ってたって、覚えているのに。
美樹も真樹も飄々としているようで傷だらけだって、知っているのに。

赤の女王レースは、詰め込み世代には身に沁みます。
ネットの流行語を駆使し、主役の双子は17歳、
学園を舞台にした話もあり、例えがいちいち新しい新世代の小説のようで、
とうに学生時代を終えた読者こそが、共感できる物語になってます。

冊数を重ねるごとにどんどん常軌を逸していく美樹のお目付け役高槻刑事が、
なんというかもう取り返しのつかないことになってまして、おかしいやら悲しいやら。
……斧って。

本格ミステリで双子と言えば当然例のアレなわけですが、

高槻刑事は「死神美樹の」お目付け役であって、
美樹をほったらかして
真樹についてくるとかありえない。

デート中でも美樹に呼び出されると彼女置いて帰るような、
後悔も躊躇もしない「愛について考えない」真樹が、

「そのありえねー女運のなさに、魂の双子とまで思ったのに」
「裏切り者!」

とか言うわけないと5冊読んだ身としては思うわけで、

人物紹介に美樹と真樹の名前すらないのはそういうことかと。

「わかりきってるでしょ? だからあえてハッキリさせないよ」という作者の意図かと。
……思うんだけど、でもじゃあその理由はなんだろう?
その理由は次巻まで持ち越しなのでしょうか。
真樹が美樹ひとりに行かせるわけないと思うんだけどなあ…

でもそれがそもそも思い違いなんだろうか。

ということで思い出すのは
シリーズ一作目『パラダイス・クローズド』133~134頁。
そしてその後そのことを回想する高槻刑事の疑惑。241頁。

熊井が死んだあの夜、部屋の中で悪夢に怯えて泣いていたのは、
双子のどっちだったのだろう?
(中略)
あの晩、彼らの間には何があった?

湊警視正も私のような読者も、
立花家の双子に最初からだまされているのかもしれない。


行く先々で人が死に、不吉な死神と恐れられ、学校にも行けず引きこもる、
情緒不安のゴスロリ美少年、重度のアクアリストの兄、美樹。

肉親にも見放された美樹を守るために自分の青春を捨て、立場と外見と、
明晰な頭脳をフルに使って殺人事件を解き明かす、名探偵の弟、真樹。

美樹は不安定で病気で、真樹は明るくて冷徹。
美樹は一人では生きていけなくて、真樹はどこへ行っても大丈夫。
……本当にそうなのでしょうか。

本当にそうならどうして美樹は4作目『リッターあたりの致死率は』で、
「真樹を泣かせる」なんて理由で、あそこまで?

そんなわけで今後も目が離せない「THANATOS」シリーズ、
笑いあり涙あり萌えあり薀蓄山ほどありの、ひねくれた本格ミステリです。
ストックがこれで尽きたそうなので刊行ペースが遅くなるのかもしれませんが、
今後も付き合っていく所存でございます。

とりあえず読み終わって一番最初にしたことは、
ネットで例の画像を検索することでした…↓
検索して初めて知ったけれど、「青酸カリ」は改変でしたか。そりゃそうですよね(笑)。

konan.jpg

もちろんこの画像も改変ですけども(笑)。


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